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ソウルヨガ

主流秩序、DV,スピシン主義、フェミ、あれこれ

慰安婦問題を正面から扱った映画『鬼郷』

 

映画『鬼郷』(チョ・ジョンレ監督、2015年韓国)をみた。
鬼郷(クィヒャン、キハン)とは「魂になって故郷へ帰ること」の意。

素晴らしい映画だった。
戦争のひどさ、慰安婦制度のひどさを目に見える形で再現して、その残酷さ、非人道性、暴力性、無念さ、慟哭を描いたからだ。
おおむねこのようなことだったのだろうということがよくわかる。その愚かさが再現された。

 

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だが、右翼、日本のネット界隈、日本の右派メディアは、例によって、これを「反日映画だ」「荒唐無稽のプロパガンダ映画だ」「事実に反している」とののしって攻撃している。

 

だが、忘れていないだろうか。
ドキュメント映画と違って、創作された劇場用映画の多くは、想像力によってデフォルメされて作られるのが常だ。たとえベースの事実があっても、かなり分からないこともある中で、想像で補ったり展開したりすることはよくある。

 

たとえば司馬遼太郎竜馬がゆく」だって、いろいろ調べて事実を入れ込みながらもかなり創作されている。


セクハラの事件をベースに作った「スタンドアップ」は素晴らしいが、これも創作されたもので、全部が事実というわけではない。
ルワンダの内戦・虐殺を扱った「ホテル・ルワンダ」も、事実をベースにしつつも、創作されている。


その他、もっと事実に即したものから、もっと事実から離れたものまで多様な映画がある。戦争映画の多くは、戦場のリアリティが一部はあるものの、その描き方で様々な映画になっている。

 

プラトーン」は作りものだが、事実あったようなエピソードを入れ込み造られている。
「ブラック・ホーク・ダウン」 も事実をベースにしているが作り物だ。かっこよく恋愛ものにした軍隊映画などいくらでもある。
カサブランカ」「独裁者」「7月4日に生まれて」「フルメンタルジャケット」「ハート・ロッカー」も戦争の実相を踏まえている。が事実だけではまったくない、つくりものだ。

 

ナチス強制収容所を扱った映画はたくさんあるが、シリアスに事実に近いことを真面目に扱うものから、中には女性収容所というようなポルノ的な「娯楽的作品」まである。だが、そこに嘘がはいっているからといって、収容所の虐待の事実がないというのは愚かだ。「シンドラーのリスト」「戦場のピアニスト」でさえ、作り物の部分はもちろんある。「ソフィーの選択」も。

 

「あなたにならいえる秘密のこと」は、暴力の被害、傷ということを繊細に描いているから現実に基づくものだが、創作ものだ。
「追憶」は米国の赤狩りをベースにしているが作り物だ。『パレードへようこそ』はイギリスのLGBTと郎等運動の接合の事実をベースに描いたが、創作ものだ。

つまり、創作ということは多様な幅を持っている。事実が95%のものもあるが、事実が70%、50%、30%、10%のものなどいろいろある。


で、今回の『鬼郷』、元慰安婦の方の証言、その方が書いた絵をベースに、聞き取りなどによって作られた映画だ。しかし、主人公を含め創作ものである。事実をベースにしてはいるが、歴史的事実だけを集めたものではない。架空のエピソードを入れ、架空の人物たちの物語となっている。

 

だが、おおむねこのように連れ去られたり、連れていかれたり、慰安婦にされたり、慰安所で子のように扱われたのだろうと思われる。大きく事実と相違しているわけではない。

細かい点で「事実と違う」と反論しても意味はない。連れ去るときに甘い言葉でだまそうと、朝鮮人が連れ去ろうと、本質的に「強制的に慰安婦にされた」という認識に相違はない。

 

幼い少女たちが、連れていかれ、毎日、何人もの兵士の性欲処理に供されたのだ。時には殴られただろう。妊娠することも性病になることもあった。病気になることも。逃げられなかった。

その過酷な実際の状況は、この映画に描かれたことに近いと言わざるを得ない。そしてそれは当事者が、このようだったということの話をベースに作られているのだ。何を「事実でない」というのだろう。

 

 

右翼諸君はこれが事実でないというなら、ではどんな慰安所だったのか具体的に映像で描いてみればいい。きれいな部屋で、主体的に女性がお金儲けのために喜んでセックスしていたと思っているのか。そのような映画をつくってみればいい。「そうだ、こんな風だった」と当事者が言うだろうか。世界は「日本軍は、いい慰安所を作って、慰安婦は幸せでしたね、強制性はなかったですね」、というだろうか。

 

だが右派は何とか史実を隠そうとして、些末なことを持ち出して、すべてがでっちあげだ、間違いだ、ウソだと叫び散らす。


アウシュビッツなどの収容所の様子を描いた映画の一部が、史実にないシーンがあるということで収容所の虐殺全体がないというのと同じだ。

 

あまりに愚かだが、産経新聞などがそうしたキャンペーンを張っているために、ネットの情報(産経新聞がこの問題では多い)しか見ないネトウヨや一般市民は、「朝日新聞は吉田証言という嘘をベースに全く虚構の慰安婦報道をした」、そして「だから慰安婦制度はとくに問題がないのに世界は誤解している」と思い込んでいる。例の橋下市長もそうだった。

こうした人たちは一言でいうならば無知としか言いようがない。

 

多くの研究や本が出て、慰安婦制度全体のひどさはおおむね証明されている。日本軍も関与していた。この大きな事実をみないから「奴隷制」という規定も理解できない。

 

そして昨年、日韓政府は当事者やその運動団体の主張を全く無視して、真相究明も、記録の保全なども、被害者への正式な謝罪もないような日韓「合意」なるものをうち出した。それはもう多くの人から批判され、被害者の尊厳が回復される真の解決に至るものではないことが明白になりつつある。韓国内では反対運動が続いている。


賠償金でないといったうえで金を出すからといって、またまた金で解決しようとする日本。恥さらし。罪の上塗りというしかない。

 

話しをこの映画に戻そう。
だからこの『鬼郷』が2016年に韓国で大ヒットして350万人が見たという事実には意義がある。問題は、このような映画を素直に見て、おおむねこのようなことがあったという事実を受け入れることをしない多くの日本人の側にある。ましてやこの映画を批判するだけとは。

 

 

監督も言っているが、この映画は日本を攻撃するために作ったキャンペーンの映画ではない。
素直に見れば、戦争というものの残酷さ、戦場における慰安婦制度的なものの残虐性をリアルに描いた映画だ。今後このようなことがないようにという願いがあふれている。
その兵士がどこの国の兵士であろうと、戦争になって残虐性を見せる兵士はかなり多くの侵略側の国の軍隊において見られたことだ。レイプは戦争につきものだった。そしてもちろんそのことは日本軍のレイプや慰安婦搾取虐待を少しでも許すものではない。
どこでもやっていたから、日本だけを批判するなというのはあまりに愚かしい人間の言葉だ。

 

だからこの映画は、もうこのような戦争をしないでおこうという思いで作られた。そして犠牲になり壮絶な苦しみの中で死んでいったり精神や肉体や人生をつぶされた多くの元慰安婦たちの思い、悲しみ、怒り、慟哭を扱い、その魂をいやそうとする映画だ。

 

それになぜ反対する必要があるだろう。どこの国の人でも戦争に反対し、性暴力に反対するなら、この映画に賛辞を贈るだろう。


涙を流し、戦争は嫌だと思うだろう。


だからこうした映画を見る必要がある。
「ホテルルワンダ」を見る必要があるのと同じだ。

 

私は水木しげるが戦争体験を描いた漫画を描いたことからも学んだ。戦争映画をたくさん見て、戦争の愚かさ、残酷さを見てきた。
それもあって戦争に反対だ。

自分の国を守るというような愛国心という物語で戦場に行くほど愚かではなくなった。


だが若い人は洗脳されてどの時代でも簡単に愛国心という名で戦場に行かされる。そしていつも犠牲になり、精神を病み、あとで戦争の実相を知るのである。


だから賢い人は、過去からまなび、未来を創る。戦争はしないということが一番大事だ。銃を持つ人生は、もうそれだけで不幸せだ。

 

観るのもつらいシーンがたくさん出てくる映画だ。殴り、レイプし、銃で撃つシーンがたくさん出てくる。これほど殴るというのを見せられるのは、ひどい体験となる。しかし、その1000倍も現実は厳しい。この映画の残虐シーンが嫌なら、戦争に反対し、慰安婦問題にもちゃんと向き合うべきだ。

 

日本ではこの映画は劇場公開はできなかったという。それ自体が、日本社会の狭量さを表している。

多くの日本人が見たうえで、かんがえていくべきだろう。

 

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関連ネット情報
https://matome.naver.jp/odai/2145484719444678101

チョ監督は「慰安婦被害生存おばあさんたちに『私たちがされたことを忘れずに記憶して、多くの人々が知ることが出来るよう力を貸して欲しい」と頼まれたので、この映画をあきらめることはできなかった。 一人、また一人と亡くなるたびに申し訳なくて焦りもしたが、ようやくほとんど完成までこぎつけて感激している」と語った。

 

http://japan.hani.co.kr/arti/politics/19577.html
[コラム] 映画『鬼郷』、慰安婦にされた少女たちの慟哭
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