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NHK・クローズアップ現代+「“少女像”問題」のひどさを確認するーーその2

 

●そうした中、慰安婦・家族のなかには、日韓合意を進め、慰安婦像を撤去するべきだという人もいました。
寝たきりの90歳代の元慰安婦Bさんの家族がインタビューに答える。
母親はむかしの傷で苦しんでいると。
「やはり日本側が本人に会って直接『申し訳なかった』とひとことでも謝罪してくれたら、死ぬときに気持ちが和らぐと思うのですが、ここまで時間がかかってしまった以上、お金をもらったことで終わりにしてほしい、お金を受け取ったのだから、少女像は撤去しなければならないと思います」


→ この家族のことばをどう評価するか。番組では、当番組の結論の「慰安婦像撤去の声がある」ということを証明するもののように利用していたが、この家族のことばからは、あるあきらめ、高齢になってしまった思い、いつまでも抵抗していても当事者であるおばあさんはもう寝た切りだし・・・という思いが伝わってくる。


しかも今回の合意がひどいものとは十分にはわかっていない様子だ。今回の合意では、安倍首相は口先ではお詫びというが、けっして韓国にいって当事者の元慰安婦には詫びないといっている。当事者に会いたくない、直接謝罪はしたくないというようなお詫びとは何なのか。
安倍首相は、日本の右翼勢力などに「裏切りだ、屈服した」ととられてはまずいと思い、本心から謝罪を正式にはしないために、アジア女性基金と同じく、「正式な謝罪ではないごまかしの謝罪」で済まそうとしている。だから韓国の人が求めているものとは違うのだ。

 

安倍周辺は、韓国に行って慰安婦の人の前で謝罪することを明確に拒否している。そうする必要はないといっている。それが合意の正体だ。
10億円というわずかな金を韓国の財団にだして、個人への賠償金ではないと言い切っている。これを韓国では理解していない人が、合意に賛成している。たかだか10億円であいまいにことを済まそうという悪知恵の塊が「日韓合意」だった。韓国の反合意運動側はそうした姿勢に怒っているのだ。

今回のNHK番組は、この大事な点を示さず、認識のあいまいな慰安婦家族のたったひとつの意見を利用して、安倍政権側の言い分ばかりの番組にしている。この偏向ぶりはすさまじい、といえる。


そもそも、慰安婦像についても、恒久的に設置してもいいものである。それをどうして撤去しないといけないのか。金をもらったら撤去しないといけないというのは、人権の観点での解決ではなく、取引の観点に過ぎない。少女像が未来に向けた平和のモニュメントなら、なくすべきではない。家族に無理に「撤去」を言わせているこの構図がおかしい。

 

まとめるならば「慰安婦・家族のなかには、日韓合意を進め、慰安婦像を撤去するべきだという人もいました。」という言い方は、かなりの人がそういっているかのようなニュアンスで伝わる言い方だが、今回の番組でそれを言っているのはたった一人である。お金を受け取ったことと、少女像撤去に賛成するのとは違う。ほんのひとりの例を使って、恣意的な結論を言うのはゆがんだ番組であり、公平客観的な番組ではない。


中国に連れていかれた別の元慰安婦Cさん
ナレーション「世論が自分たちの思いと裏腹に、日韓合意破棄に傾くことにやりきれない思いを抱えています」
慰安婦Cさん「私の人生は苦労ばかりで悲しかった。慰安婦が苦労してきたことを世間の人は理解していないのに、少女像設置の騒動のようなことをしている。(日本からもらった10億円を)返すべきといってますが、私は返したくありません。本当に胸が痛みます」

 

→  番組冒頭で紹介された発言がこのCさんの言葉だったとわかる。
「自分たちには苦労があるのに、それをしらないであんな騒ぎを皆が起こしている。本当に胸が痛みます」という部分は、筆舌に尽くし型自分たちの苦しみを他人は知らない、経験していない者にわかるわけがないという嘆きとしてはよくわかる。

 

しかし、いま韓国の世間で行われている反合意の運動は、慰安婦の苦しみのようなことを二度と起こさないための反戦争の運動であり、また反「性暴力」の運動だ。だからその真意が伝われば、Cさんと意見がこの点で対立するものではないだろう。

 

次に、お金のことについては混同がある。運動側が言っているのは、今回受け取った個人の金を返金しろと言っているのではなく、日本政府が財団にだした10億円を国として返金しろと言っているのだ。生活に困っている普通の人なら1000万円ものお金がもらえるといわれればもらいたいのが普通だろう。それを「返せ」といわれるのは嫌だろう。その意識に付け込んでの誘導を感じる

10億円で日本の思うような打ち止めの合意にしようというう「悪魔の金」を返して、再度平等で対等な話し合いをしようといっているのが韓国側の運動だ。韓国側が「返したい」というなら返してもらって再度、ちゃんと多くの韓国の人が納得できるような合意を結べばいい。

 

それをいやがるということはいかに、2015年日韓合意が「大事な点が抜けた20点くらいの作品」であったかを示している。日本自らが、あの合意が慰安婦当事者を含め多くの韓国の人の納得と合意を得るものではないということをわかっているから、再交渉したくないのだ。いいものという自信があるなら、再交渉しても同じものになるだろうに。


韓国の大統領が変わろうと変わるまいと、もし日本が言う真の友好的な永久的な解決の枠組みならば、堂々と同じことを韓国の人々に言えばいい。本当に日本が謝罪するいいものなら韓国は受け入れ、「よく日本は態度を改めた、それを受け入れる」というだろう。

 

だがあの「合意」は日本は態度を改めていない。実は2015年合意と同じものを結ぶということは、あれもこれもしませんよというものなので、上手くいかない。韓国側が教育とか、正式な謝罪とかを求めて70点、80点の合意を目指せば日本は嫌がる。つまり日本はほんとうには何も譲りたくないし、態度を変えたくない。ただ、もうこの慰安婦問題を今後言わないという確約がほしく、少女像をなくして終わりにしたいだけ。そのためなら〈補償ではない〉という名目さえあれば10億円どころかもっと多額でも出すだろう。

 

そういう事なのに、NHKの今回の番組には、全く違う方向に、視聴者を引っ張っていく。まるでナチスの宣伝プロパガンダ番組だ。


スタジオに静岡県立大学の奥園秀樹氏を呼んで話をきく。
慰安婦の人の自分の思いが韓国社会にわかってもらえていない」というまとめ方をした。

 

→ 今までの取材映像から、「慰安婦の人の、自分の思いが韓国社会にわかってもらえていない」というまとめ方をするのがまたまたゆがんでいる、恣意的なミスリード。間違った結論である。
わずか3人の元慰安婦と家族の取材で、しかも、そのうち2人は当事者自身は合意についての意見を語れていない。家族の思いもお金のことも絡んで複雑である。運動側への誤解も「合意」への浅い理解もある。


そうした一部の意見の断片から、まるで、「慰安婦の人」と「韓国社会」がずれて、慰安婦の思いが置き去りにされているという見立てをしている。この構図は全く真実に反する。
それはこの番組の偏った構図に過ぎない。

 

 

●「なぜ韓国で慰安婦当事者の声が届かないのか」と質問して奥園氏が答える。
「7割を超える人がこの合意を受け入れてくださったことは重く受け止めるべき」

 

→ 7割の家族が金を受け取ったことと合意を受け入れたこととは別であるのに、意図的にごまかしているのがまずおかしい。しかも慰安婦ではなく家族が受け入れたことをごまかしているし、量で見て反対している人の質、その意見自体を見ていない。


私から見れば、アジア女性基金の時と同じように、金という力で無理やりに事を終わらせようとした酷いもののように思える。反対意見を無視し、強引に7割もの人に家族というルートも通じて金を受け取らせ、政治的に推し進めたことがひどいと思う。
韓国大統領が変わって、この合意が見直されるだろうが、その時に、お金を受け取った家族も、また態度を変えていく可能性はある。最終的に日本が過ちを認めたと聞いていたのに、そうではなかったと知って、「騙された」という人が出てくるだろう。罪つくりなことを韓国政府と財団は行ってしまったのである

 

また奥園氏の「受け入れてくださった」という言い方は、「合意」で打ち止めとしたいと願う日本政府の立場に立った言い方になっていて、中立的な学者の言い方ではなくなっている。
学者たるもの、客観的というなら、日本政府側オンリーで語るのではなく、せめて中立的に語るべきだが、この奥園さんはそうしたことも意識できないほどナショナリスティックに自分の偏ったポジションを前提化している。

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●奥園「問題は、当事者が金を受けとっていることが報道されないことだ」「決して多数ではない反対の声だけがクローズアップされていく」「当事者を無視した合意だという誤ったイメージがひとり歩きしている」と分析。

 

→これは非常に偏った見方のオンパレードである。韓国では通じない。すべて日本の政府側(もっと言えば日本の右翼の見方)の言い方そのものだ。奥園氏は政府や右翼の代弁者なのか。


韓国では、奥園氏は「問題が分かっていない」と大いに批判されるだろう。お金を受け取った側にも多様な思いがあることを踏まえて運動が行われていることをみずに、「運動側が当事者を差し置いて、事実を隠してエキセントリックに反対のための反対をしている」という、日本の政府や右翼にとってとても都合のよい構図で、ことを認識している時に出てくる言葉が、この奥園氏から繰り出されている。

 

そもそも「けっして多数ではない」という言葉をメモをみながら強調するところに、この「日本政府の立場を擁護する偏向した番組づくり」を二人三脚でおこなった人なんだなということが見て取れる。「当事者を無視した合意という誤ったイメージ」というのも同じだ。


「当事者が金を受け取ったことを言えないのは、差別偏見ゆえに元慰安婦ということを隠している人が多いから」ということが無視されている。

 

まあ学者・大学教員というのはこの程度の人が多いからとくには驚かないが、私からみれば、慰安婦問題という歴史にもジェンダーにも政治もかかわる大問題を、よくもよく知りもしないでテレビ番組で語れるものだなと、その《勇気》に呆れた。

ちゃんと研究している人や長年運動している人たちからくる批判が予想できないのだろうか。

無知ゆえに恐れを知らない強みか。あるいは特に政治的に右翼の立場を選んでいるということか。分かっているならそういう立場もあるだろうが、その人だけをスタジオに呼ぶのは偏っている。せめて反対意見の学者も入れるべきだろう。


もし奥園氏が、主観的には中立のつもりで、いかにこれが政治的なあるスタンスとして偏っているかがわからないならば、学者としては失格だ。それさえも自覚できないバカなのか。

 

奥園「(韓国では反対運動のために)合意そのものに対する理解がいっこうに進まない」

→よく言うよと思う。日韓合意に対する正しい認識が広がっていないのは日本だろ!正しくわかれば、奥園氏のようなことはいえない。韓国では合意の本質への正しい理解が広がっているから合意に反対(合意破棄の意見)が広がっていると理解できる道があるとわからないのは、立場ゆえに目が曇っている。

 

 

●奥園「慰安婦の人は高齢で先は長くないから時間との戦い。それなのに韓国の一部の運動が抵抗して、解決を邪魔している」「慰安婦の人自身が、自分たちの問題で社会が対立しているのが忍びない、子どもや孫に少しでもお金を残してやりたいと思っているんだから、その思いを尊重してすぐに日韓合意の線で終わりとすべきだ」といった趣旨の発言。

 

→ これも勝手な妄想をベースに話している。多くの人にお金がいるのは当然だが、それなら日本政府がちゃんと補償として払えばいい、それならすぐに運動側も受け入れる。それをしないで、「ひどい性質の金」(毒饅頭≪どくまんじゅう≫ですね)を出すから混乱が広がっている。

韓国の運動側の問題ではなく、そのような対立を引きおこすような欠陥だらけの「日韓合意」が問題の解決を止めている。


時間がないから一刻も早く、対立の原因となっている「合意」を見直せというならともかく、時間がないから、「とにかくこの毒饅頭でも受け取れ」(この日韓合意で終わりとしろ)と強制するのは、強者が時間や金をちらつかせて相手に不利なものを受け入れろと攻めよっていることと同じ。


これがわからないというのは、あきれるほどの鈍感さといえる。こういう傲慢さが解決を遠のかせている。


NHKの今回の番組は、日本の一部の右翼的な人には気持ちいいものあろうが、日韓の対立を減らすのではなく、増大させるだけだ。韓国でこのNHK 番組を字幕付きで紹介すれば、「そうだったのか」と和解の方向に進むのではなく、日本はなんて自分勝手に捻じ曲げているのかと怒りがさらに大きくなるだけだろう

そういう番組だとわからないとしたら、この番組を制作したNHKのディレクターは愚かであるとしか言いようがない。でも実は右翼的な確信犯の意識で作っているのだろう。
問題はそういう偏ったディレクターの番組を偏りすぎていると見抜くチェックができないNHK 全体の問題である。

 

つづく