北原みのりさんが安倍首相のひどさについてゲスだとエッセイを書いた。もっともな指摘だ。
ただ、「辻元さん的なもの」は、北原さんが指摘する以上にいろんなものがあると思う。
安倍首相はむかしから辻元に敵意を持ってきた。コンプレックスがあって、憎くて仕方ないのだろうと思う。能力的にも人間的魅力としても安倍さんという人はあまり高くないというのは大方が認めることだろう。安倍自身がそれを感じ取って鎧をつけて大きく見せようとして必死なのだ。だから対抗的な位置にある辻元に負けたくないのだ。
だがいろんな勢力の支えがあって神輿として安倍さん的なものは、いま、右翼勢力が担ぎ続けたいものだ。
そういう勢力が見ている情報には、「日教組、サヨク、極左、労働組合、社会党(!)、社会主義、全体主義国家、人権派、外国勢力、在日、北朝鮮、テロ勢力、個人主義、反日、反愛国、反天皇、反家族、反伝統、ジェンダーフリー、フェミニスト、従軍慰安婦、反原発、マルクス、朝日新聞、赤旗」というのがひと塊で≪敵≫であり、≪日本を悪くしているもの≫であり、それと一体のものとして「つじもと」という記号をとらえている。
だからデマでもなんでも産経も、安倍も、「つじもと」と聞くと気色ばみ、批判する。批判したいがために、嘲笑する。
籠池夫婦も昭恵夫人も橋下・元維新代表も、同じような右翼雑誌・右翼情報を見ているから、その感覚を共通に持っていて、だから籠池妻と昭恵夫人のメールにも「辻元」が出てくる。
北原さんが言わんとするのも以上の話に近いと思うので、賛成だ。
で、だから右翼は「つじもと」だけでなく、北原みのりも、香山リカも、上野千鶴子も嫌いでつぶしたいと思っている。ジェンダーフリーバッシングはそういうエネルギーの現れのひとつだった。
安倍の器の小ささ、ゲスさは、ほんとヒトラーやトランプと似ている。コンプレックスの塊は、かんたんに嘘を言えるし、無茶をする。
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北原みのり「『安倍さん的なゲス』の空気」
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週刊朝日 2017年4月14日号
作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は、安倍晋三首相の態度から心根が「ゲス」だと感じたという。
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私はハッキリと、安倍さんはゲスだと思った。3月28日の参院決算委員会で辻元清美衆院議員の名前を出してきたときだ。
総理に失礼があってはいけないと、「ゲス」を一応、大辞林で調べた。「品性が下劣なこと」とあった。さらに「下劣」を調べると、「他人に対して守るべき節度を欠いていること」とあった。なので、「ゲス」で大丈夫でしょう。安倍さんは、野党女性議員に対する態度に問題がある。
産経新聞は3月28日の紙面で、辻元議員に関して「3つの『疑惑』」という扇情的なタイトルをつけた記事を掲載した。籠池諄子氏が昭恵氏に送ったメールを根拠にした内容だった。
「将棋連盟から指導棋士の将号を返上しないと幼稚園にいくならやめよと言わないがやめて辻元清美が幼稚園に侵入しかけ 私達を怒らせようとしました嘘の証言した男は辻元と仲良しの関西生コンの人間でしたさしむけたようです」(原文ママ)
主語も句読点もない部外者には難しい文章。こういう文体でやりとりするには共有する価値が必要だ。一連のメールの中には「辻元清美共産党今はぐっと辛抱です(笑)」なんてのもあったが、彼女たちにとって「辻元さん的なもの」はツーカーでわかりあえるナニカだったはずだ。
産経新聞は事実確認の取材をせずに「疑惑」として報じた(冷静になれよ! 国会議員が「侵入」する必要ありますか?)。
その記事をもとに、安倍総理は、森友学園の一連の不誠実な対応を民進党の議員に問い詰められた時、
「御党の辻元議員との間にも同じことが起こっているじゃないですか」
と、辻元氏の名前を出したのだった。
もしこれが、共産党の小池さんを名指ししたのであれば、わはは自民党って小せぇ!と噴き出したかもしれない。だけど、何故だろう、辻元さんの名前が総理の口から出た時、全身をねばねばした膜に覆われたような、不気味に重たい気持ちになった。
この人は今、悪意をエサにして「辻元さん的なもの」を叩いて溜飲を下げたくてたまらない人に向けて、言葉を発している。批判の矛先が変わることを狙ってる。権力のあり方を真摯に自省するつもりは一切ないのだ。
「辻元さん的なもの」、それはリアル辻元さんとは全く無関係で、ある種の人たちの妄想の中で生息している「権利を主張する女」である。そういう女に対して、ある種、ショーのように、自らの論理破綻すら厭わずに力尽くの嘲笑で、「彼女」を侮辱してきたのが「安倍さん的なゲス」だ。
嘲笑するほど、自分の論理破綻や矛盾がなかったことになるかのように、堂々とからかう。
これまでも安倍総理の辻元氏に対する「早く質問しろよ」発言や嘲笑は、見るに堪えなかったが、総理のその態度に盛り上がる空気が、この社会にはある。
総理のお友達や妻等も、「辻元さん的なもの」を記号のように共有し、叩いて絆を深めていったのだろう。
いったいいつまで、こんなゲスにつきあわなくてはいけないのか。
※週刊朝日 2017年4月14日号
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