これはしらなかった。
あまりにおかしいことに憤っている人が多くいたということだろう。
とすれば、国会での野党の追及にまともに答えない与党の在り方を批判しないメディアの感性の鈍さが問題だろう。
- 共謀罪審議:「コッカイオンドク!」で再現 市民が音読
日新聞2017年6月12日 11時33分(最終更新 6月12日 14時51分)
「共謀罪」を巡る安倍晋三首相の国会答弁を再現する参加女性(右)=東京都港区で2017年6月11日、石川将来撮影
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「共謀罪」の成立要件を改めたテロ等準備罪を新設する組織犯罪処罰法改正案が参院で審議される中、国会の質疑を文字に起こして音読する取り組みが市民の間で広がっている。質疑の矛盾点も再現することで審議や法案の問題を浮き彫りにするのが狙い。金沢市の主婦の呼びかけで先月にスタート。フェイスブックなどで各地に広がり、11日には全国で一斉開催された。
活動は「コッカイオンドク!」と名付けられ、11日は札幌、名古屋、京都、鹿児島市など22都道府県の44カ所で開催された。東京都港区の会場では市民17人が参加。犯罪捜査の対象範囲を聞かれた金田勝年法相が「えー」と言葉に詰まり、官僚の助けを借りる場面などを再現した。質問に答えるために手を挙げようとした金田法相の肩を、安倍晋三首相らが押さえて答弁させない場面も演じた。
参加したコピーライターのマエキタミヤコさん(53)は「市民が国会を忠実に再現して笑いが起こる状況を屈辱と感じるべきだ」と法案審議の現状を批判。先月15日に石川県で初めて「コッカイオンドク!」を開催し、火付け役となった金沢市の主婦、小原美由紀さん(52)は「編集されたニュースでは国会の様子が正しく届いているか疑問に感じた」と話している。【石川将来】
サンデー毎日 2017年5月31日
前言を忘れたかのような発言と曲解、誤った事実認識、言行不一致。安倍晋三首相が国会内外で繰り広げる言動には、国民を唖然(あぜん)とさせる不可解さがある。「“安倍語”研究」上編では、5月23日、衆院で可決された共謀罪法案を巡る国会審議での首相答弁を読み解く。
「そもそも」という言葉には「基本的に」という意味がある――。そんな答弁書が閣議決定されたのは5月12日のことだった。その直後に『毎日新聞』では校閲記者がこの答弁書を〈読んだが文法的に理屈が通らず、校閲記者の私は頭が混乱した〉と報じるなど、あまりに牽強付会(けんきょうふかい)なものだった。
答弁書の説明はこうだ。
【例えば平成18(2006)年に三省堂が発行した大辞林(第3版)には、「そもそも」について「(物事の)最初。起こり。どだい」などと記述され、この「どだい」について「物事の基礎。もとい。基本」などと記述されていると承知している】
「そもそも」=「どだい」=「基本的に」といういわば三段論法だが、これについて前出の『毎日新聞』ではこう論評している。
〈大辞林で「どだい」の意味があるとする「そもそも」は名詞用法だ(文例「そもそもは僕が始めたもの」)。「どだい」も、その意味とする「基本」も名詞だが、首相の言う「基本的に」は名詞ではない。「どだい」に副詞用法もあるが、否定的な文脈で使われる〉
事の発端は、安倍晋三首相の国会答弁にある。
今年1月26日の衆院予算委員会。民進党の山尾志桜里議員が、今国会に法案提出予定であった「テロ等準備罪」について、2006年に自民党が「共謀罪」の修正案として出してきたものとの同一性を指摘。すると、首相がこう答弁した。
安倍「かつての共謀罪は、いわば、共謀して何人かが集まって合意に至ったらそこで共謀罪になるわけであります。今回のものは、そもそも、犯罪を犯すことを目的としている集団でなければなりません」(注1)
その後、2月17日の衆院予算委員会。やはり山尾議員の同法の適用範囲の質問に答えて、
安倍「例えば、オウム真理教がそうでありますね。当初はこれは宗教法人として認められた団体でありましたが、まさに犯罪集団として一変したわけであります。(中略)犯罪集団に一変したものである以上それは対象となる」
さらに、テロ等準備罪の審議が始まった4月19日の衆院法務委員会。またも山尾が安倍を追及。「そもそも」は「はじめから」の意味であり、「首相の“そもそも”論に従えば、オウム真理教は当初は宗教団体で対象外となるが、どうか」と質(ただ)した。
安倍「そもそもという言葉の意味について、辞書で念のために調べてみたわけでありますが、これは基本的にという意味もあるということもぜひ知っておいていただきたい」
その後、『毎日新聞』が〈30種類以上の辞書に当たったが、「基本的に」とするものは見当たらなかった〉(4月30日朝刊)と指摘。さらに民進党の初鹿明博議員が質問主意書を提出。
【一、複数の辞書を調べたが、「そもそも」の意味として「基本的に」との記載がある辞書はなかった。本当に調べたのか。
二、調べている場合、安倍首相が調べた辞書の書名、出版社名、出版年を示されたい】
この政府答弁書が、冒頭のものにあたる。
だが、「そもそも」に「基本的に」という意味があることを政府が認めたとすれば、「共謀罪」に限らず、これまでの国会審議の真意や論点が変わってきて、とんでもないことになる。なにより安倍が困るはずだ。例えば、17年4月17日の衆院決算行政監視委員会の首相答弁。
安倍「私が森友学園についてお話をした件については、そもそも寄附はしておりませんが、もし寄附をしていたとしてもこれは犯罪ではない。感謝こそすれ、犯罪ではないわけであり……」
これを「基本的に」に置き換えてみる。すると、
私が森友学園についてお話をした件については、基本的に寄附はしておりませんが……」
基本的にはなくても「間接的に」「迂回して」寄付した、あるいはなにかもっと別のかたちで力添え、口添えをしていたのか。疑惑の原点に立ち帰ってしまう。
辞書にない「そもそも」=「基本的に」
また、同3月17日の衆院外務委員会。同学園の籠池泰典前理事長について、
安倍「そもそも会っていない人物でございますから、会っていない人物に100万円ものお金を寄附することはあり得ないわけでありまして……」
はて?「基本的に会っていない人物」とは、どういうことだろうか。表向きは会っていない、という意味だろうか。
安倍「私や妻が許認可とか、だって許認可ってそもそもこれ大阪府じゃないですか」
「基本的に大阪府」ということは、国が関わることや口を挟むこともあるのか。
さらに同3月31日の参院本会議の代表質問。違憲性を指摘する平和安全法制や自衛隊の活動に関して、
安倍「(自衛隊の20年以上にわたるPKOやイラク、インド洋等における活動に触れ)その結果、国外における他国軍隊への後方支援であっても、後方支援という行為の性質上、そもそも戦闘が行われているような場所で行うものではなく、危険を回避して、活動の安全を確保した上で実施するものであること、(中略)それらの活動は他国の武力の行使と一体化するものではないと判断したものであり、違憲との御指摘は当たりません」(注2)
これを「基本的に」に置き換えると、やはり「例外的に」あるいは「散発的に」は戦闘が行われていることも否定できなくなる。
そして、同2月14日、衆院予算委員会。南スーダンで活動する自衛隊の日報隠しが問題になって、(注3)
安倍「殊さら我々は戦闘というものを隠蔽(いんぺい)しようという意図はそもそもないわけでございまして……」
「隠蔽しようという意図は基本的にない」とは、必要とあれば隠すのだろうか。
さらに安倍はこう続ける。
安倍「そもそも戦闘ということについては、先ほども申し上げましたが、スーダンが南スーダンを爆撃した、(平成)24年、これは民主党政権ですよ。あのときも戦闘と書かれていましたが、戦闘行為はなかったというのが野田総理の、野田政権の閣議決定した答えじゃないですか。当時も日報には戦闘と書いてあったんですよ。しかし、戦闘行為はなかったと野田政権が、民主党政権時代、答えているんですよ。今それと同じことが起こっているだけにすぎないということを私は申し上げておきたいと思います」
もうここまでくると、「○○ちゃんだってやっているじゃないか」という子どもの言い逃れだ。
この首相が、5月3日の憲法記念日に憲法改正について具体的に言及。自衛隊の存在を新たに明記し、高等教育を無償化する提案で、20年までの施行を目指すとした。
オウム真理教巡る発言にも疑義
さらにその1週間後の19日、テロ等準備罪が衆院法務委員会で強行採決。23日には衆院を通過した。
言葉遊びに終始し、審議不十分と叫ばれるなかで「共謀罪」は成立しようとしている。
いや、それ以前に、国会審議にあったオウム真理教の認識からして首相は間違っている。安倍のオウム真理教に関する発言は嘘(うそ)だ。
オウム真理教の東京都による法人認可は1989年8月25日のことだった。
その前年88年9月には富士山の麓(ふもと)にあった教団施設で修行中の信者1人が死亡している。ところが教団は警察に通報せず、ドラム缶で遺体を焼却。
89年2月、この死亡事故をきっかけに脱会を申し入れた田口修二さん(当時21歳)を口封じのため「ポア」と称して教団施設にあったコンテナで殺害している。
さらに、宗教法人となった約2カ月後の11月4日未明には、坂本弁護士一家殺害事件を起こす。
つまり、宗教法人として認可される以前から、殺人を肯定する教義を持った殺人集団であったことは明確であり、途中からテロ組織に変貌したのではない。
その当時から、この教団の異質性を説き、追及してきたのが、他でもないこの『サンデー毎日』だった。
にも拘(かか)わらず、法人認可をした所轄庁と、坂本弁護士一家殺害事件を放置して松本・東京地下鉄両サリン事件にまで事態を拡大させた司直の問題である。
まして、松本サリン事件においては、被害者であった河野義行さんを犯人扱い。のちに村山内閣の野中広務国家公安委員長は本人に直接謝罪している。
そもそも、安倍のいうように途中から一変した犯罪集団をどの時点で見抜くのか。どう判断するのか。仮に、「共謀罪」がオウム事件の反省からなり立つものだとすると、一般の団体や個人であっても常日ごろからの監視が必要となる。あるいは捜査機関の認定によっては、一般人、団体も最初から法令適用の対象になる可能性も危惧される。
国家が言葉を作りかえる。一見、頓珍漢(とんちんかん)で能天気な首相の発言を擁護するための方便のようであるが、それは国家が都合良く意思を押しつける言葉狩りの第一歩となる。その異質性も、あえてここで指摘しておく。(文中一部敬称略)
(作家・ジャーナリスト 青沼陽一郎)
(注1)議事録より引用。ゴシック表記は筆者による
(注3)南スーダンで国連の平和維持活動(PKO)に参加する自衛隊が作成した日報を廃棄したとしながら、防衛省が保管していた問題。日報には自衛隊宿営地の近くでも「戦闘」があったことが明記されていた
あおぬま・よういちろう
1968年長野県生まれ、早稲田大学卒。オウム真理教をはじめとする犯罪・事件、原発、食の安全などをテーマに、精力的な取材に基づくルポルタージュ作品を発表し続けている。『フクシマカタストロフ原発汚染と除染の真実』『帰還せず 残留日本兵六〇年目の証言』『オウム裁判傍笑記』『中国食品工場の秘密』など著書多数
(サンデー毎日6月11日号から)