ソウルヨガ

主流秩序、DV,加害者プログラム、スピシン主義、フェミ、あれこれ

大森氏への応答その2

大森氏へ

昨日まで用事で忙しくしていて反応が遅くなりました。応答させていただきます。

◆基本スタンスについての問い

大森氏の朝日新聞掲載の意見についてやり取りしていることを、前向きなこととして受け止めるために、私も時間を割いてちゃんと応答していきますね。

大森氏の意見の背景にはどのような思想やスタンスがあるのかとまず考えたい(知りたい)と思います。 大森氏は憲法学者ということですので、人権派なのかもしれないですね。ですからまずそこを教えてください。

何を「人権派」「リベラル」というのかももちろん幅広い理解があるでしょうが、でも現実的にはおおむねわかりますよね。人権派憲法学者なら、私との共通土俵のうえでの話し合いができるかと思います。大森氏が人権を大事にすべきと思って、その一例としてDVや両親親権や面会交流について真剣に研究されてのご意見を述べておられるなら、結論は違っても真摯に話し合いができると思います。「馬鹿な学者」というようなレッテル貼りで相手を攻撃することが目的ではないので。

人権派といってもセックスワークや労働運動についての様々な立場があるように、人権派のスタンスとしても、離婚や面会交流や加害者プログラム等についても意見の相違があるのは当然と思っています。

共同親権とか面会交流について主張する人の中には、実は「人権派、リベラル、サヨク等が嫌い」、「フェミニストが嫌い」「なんでもDVといって家族を破壊するフェミニストが嫌い」「ジェンダーフリー等といって伝統的な性役割分担を批判して文化を壊すやつらが嫌い」「DVなんていうが金をとるためのでっち上げがほとんどだ」「夫婦のことに外部が口出しするな」「女のやっていることのほうがひどい」という人々もいるので、大森氏がそれと近いのかどうか、どういう立場でああいったネトウヨなどが好む主張をされたかを聞いているのです。 その意味で、大森氏は、まず人権派の立場に立っておられるのかどうか教えてください。

その他を含めて総合的に判断したのちに 「馬鹿な学者云々といった私に対する無礼な表現は訂正願えませんか? 」とおっしゃる大森氏の要求にどう答えるか判断させていただきたいと思います。

◆DVの実態を知っているのか

私の批判の投稿の根底には、「大森氏のような主張をするのは『DVの実態、それに伴う離婚/離別をめぐっての諸問題(ストーカー、殺人事件など)』をわかっていないのではないのか」という思いがありました。 でもそうではないかもしれないのでお聞きします。DVをめぐる諸問題のことはよくわかっておられるのでしょうか。DV被害者の苦しい実態――養育費さえ受けとっていない人が多い、いつまでも攻撃される、DV被害の後遺症に苦しむ、子どもへ悪影響で苦しむ、経済的な困難に陥っている等々―ーーについてご存知なのでしょうか。

あまりDVのことはよく知らないし専門でもないが、憲法を研究する一学者として、共同親権にすべきなのに反対する人がいておかしいなあと思った程度で、世間の人を啓発したいと思って人権擁護の立場であの意見を書かれたのでしょうか?

もしDVのことをよく知らないまま、この複雑で現実的には深刻な問題に「手を出してしまった」という程度なら、やめていただきたいと思います。世間をなめていると思います。

ジェンダーフリー攻撃の時にひどいことを言い続けた読売新聞や産経新聞はこの間、安倍政権へのスタンスでも、いろいろと問題になっていますが、そういう「保守/右派系」の言説を好む人々の中には、DV被害者の実態をよく知りもしないで、「子供を連れさるのは誘拐と同じだ」「共同親権にすべきだ」などと言っているので、そういう言説に意図せず加担してしまっている程度なら、もう口を出さないでいただきたいです。

私が「実態を知らない馬鹿な学者」というのは、実態を知らないで机上の空論での人権論をいうような人のことを指しています。そして大森氏の意見も、この深刻な問題に対してあまりに一面的なので、「実態を知らないのだろう」と思ってきつい表現で批判しました。私が「馬鹿」というのは「受験偏差値的に賢い」かどうか(知識があるとか頭の回転が早いとか)の基準での「偏差値が低い」という忌ではもちろんありません。とても頭がよくて賢くても、DVの事態を知らないであんな危険な意見を言ったとしたらそれは馬鹿な学者の典型だと批判したのです。 あなたから反駁があったので、この批判が当たっているかどうかを判断するために私は応答しているのです。

実態のことを知らないなら、ちゃんと被害者の苦しい実態などを勉強して正しい意見を言ってほしいと思っています。

そうはなく、実態のこともよく知ったうえであの意見を書いた、確信犯的に「親子断絶防止法を通すべきと思っている」「フェミニズムは間違っていると思う」というなら、そう言う人だと思って対応させていただきます。

◆「面会交流できなかったから事件が起こった」「子供に会えていれば事件は起きなかった」といえるのか

大森氏の主張のかなめは「面会交流できなかったから事件が起こった」「子供に会えていれば事件は起きなかった」、「だから親子断絶防止法を通し、面会交流を当然できるようにして、共同親権にしていくべきだ」、というものだと思います。

これについて私が問題としているのでそれにこたえてください。

大森氏はFBでの応答でも以下のように述べられています。

「そして11月の離婚の直後の段階に関して「離婚後3回の面会ではトラブルはなく、侑莉ちゃんも楽しんでいたという。母親は家裁で娘の意思を確認された際も「面会を喜んでいる」と答えたといい」(同上URL)。このように、11月、12月、1月の3回の面会交流の継続中には何の問題もなかったのに、2月~事件当日の3ヶ月の引き離しの後、突如として事件が起きています。引き離しによる精神状態の悪化が希死念慮に至った、これが直接の原因でしょう。2月以降も面会交流が継続していれば、精神状態の悪化が希死念慮に至ることはなく、事件は発生しなかったと思われます。」

子どもが喜んでいる側面があるといっても、面会全体に問題がなかったとは言えません。例えば一例ですが、妻に対して脅すような言葉をかけている場合もあるでしょう。それなのに、 「引き離しによる精神状態の悪化が希死念慮に至った、これが直接の原因でしょう。」 「2月以降も面会交流が継続していれば、精神状態の悪化が希死念慮に至ることはなく、事件は発生しなかったと思われます。」 「したがって面会交流の継続こそ同様の事件を防止しうると考えています。」 というような性急な結論を導かれている点は、朝日新聞の文章と同じ構図です。

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この論の進め方と結論があまりに一面的なので、私は問いたいです。

この問題がセンシティブとわかっておられるのでしょうか。現実は複雑でケースバイケースで適切に対応すべきという面があることを認められますか。私が、ケースによっては面会交流をかたくなに拒否するのはおかしい場合もあると思っている、原則的には共同親権にすべきだとおもっている、しかし親子断絶防止法は危険で今は通すべきでないといっていることを総体的に理解されていますか。

伊丹事件を大森氏のように理解するのは一面的だという主張が理解できませんか。伊丹事件の背景にある、過去の夫のDVの程度をよく認識しないと何とも言えない点があるということを理解できないのでしょうか。大森氏の主張には夫のDVの軽視が感じられます。DVをしてきて、こんな殺人をしてしまうほどの危険な人物だからこそ、面会には注意が必要だともいえるわけです。

週刊女性の情報   「借金はする、酒は飲む、暴言を吐く、部屋を荒らす、浮気をする。もう限界で、あのストレスの日々に戻ることは無理でした。弁護士を立て離婚調停を始めました」「最後の最後まで自己中で……」「養育費も払えないように仕事も辞めていたみたいで、私を困らせてやろうという気持ちがあったんだと思います。」)

私の主張の主な点について同意なさるのかなさらないのかを問うています。そこにこたえないで枝葉末節だけ応答されることには理解しかねます。

●大森氏はネット情報をあげて

「報道では「子煩悩」だったとされる父親が3ヶ月の間、引き離しにあって精神的に動揺しない、と考える方が無理があると思います。」と、まるで私がおかしいように批判されています。

しかし「引き離しにあって精神的に動揺しない」などと私は主張していませんよ。DV加害者の多くだって、妻(恋人)や家族(子供)が離れるとなるととても動揺しています。動揺しているからといって、必ず精神的な病気になるわけではなく、精神科に通っていたということと「殺人に至らないために面会交流させるべきだったという主張と一体の『面会できなかったから精神科に通った』」という主張を同一視はできません。わかりますか? 

精神科に通っていたということの原因を大森氏が自説正当化につなげるために特定していることがおかしいといっているのです。

そして離婚になった、妻や子供に会えないということから精神科に通ったとしても、だから離婚をすべきでなかったとか、妻に会えるようにすべきだ、子供に会えるようにすべきだとは直ちにはなりませんよね。子供に会えなくて動揺しているから動揺しないように「面会交流させるべきだ」ともなりません。

大森氏にはぜひこれを機に理解していただきたい。一般的に言ってパートナー関係が破綻するとき、フラれるほうはつらいです。子供に会えなくなるのは、子どもを愛していた親ならつらいです。しかしそこから面会交流させないといけないとは直ちには言えないといっているのです。ましてや、つらかったからと言ってDVを継続したりストーカー行為をしてはなりません。面会できなくてつらいから子供を殺していいとはなりません。

離婚後、子どもに会わせろということがDV行為の継続になる場合があるのです(全部だとは言っていません)。 過去のDVの傷がいえておらず、元加害者にDV(面前DV含む)したことへの反省の姿勢が見えない中で、安心して元加害者に子どもを会わせられないと被害者が思う場合があります。

そういうときに、非常に被害者に怒りの心情をもって対抗的になっている夫(加害者)側が「面会交流させないのは勝手だ」、「連れ去りだ」、「養育費を払ってているんだから子供にあわせろ」などということは、被害者には恐怖でしょう。

だから前向きな解決には、過去のパートナー関係におけるDV的な面への謝罪と償いの姿勢をもって非暴力的な関係になっていくこと、被害者との信頼回復が必要なのです。「元夫が努力しているな、変わろうとしているな、反省して変わったな」と思えるように、平和的に伝えていかないといけないのです。夫側が怒りで「子供に会わせないのは勝手だ」と対立的に対応すれば、またまたDVになる可能性が高いです。

大森氏の文章にはこうした点での被害者の立場への理解が感じられなかったから私は反発したのです

「面会交流/共同親権に反対しているのは、世界の趨勢を知らない間違った愚かな意見だ」という批判に受け取れました。「親子断絶防止法に反対してる側」の言っているリスクにかカギカッコをつけて「リスク」と表記して、それは本当のリスクではないですよ、逆に伊丹事件は同法を作るべきと言っているんですよと説教した文章だったのです。

しかし私はやはり実態からみて、DV加害者の一部には危険な人がいて、面会交流させることには危険性があると思います。それを「本当はリスクではないよ」というような主張をされることには賛成しかねます。

こうした内容の話し合いをしていきたいと思っています。だからそうした点についてどれくらい認識があるのかを聞いているのにそこについて返答がないのはどうしてでしょうか? 是非そこを答えてください。

●「父親は同居時から精神的に不安定で」という情報を紹介されていますが、 大森氏が述べている「子供と会えないから精神科に通うようになった」「離婚前には通院していなかったから伊田は間違い」という主張と矛盾しませんか。

私は、そういうこともあるし、詳しい病歴とかもわからないので、「子供と会えないから精神科に通うようになった」という主張から一気に「会えていれば事件は起こらない」とまでいうことに疑問を呈したのです。

●「伊田先生は「離婚を言われたから精神科に通ったのかもしれない。」と書かれていますが、それはありえないことです。なぜなら、離婚を言い出したのは父親のほうだからです。」と森氏は述べておられますが、この主張もおかしいと思いました。

離婚を言い出したのが父親のほうだとしても、だから父親(夫)が精神的に苦しくないとは言えないからです。

DV加害者はしばしば「別れてやる」「出ていけ」などと言います。「いつでも別れてやる」と言っていても実際に妻が出ていこうとしたり別居すると動揺して土下座して謝ったり、何でもするから戻ってきてくれと懇願することもあります。経済問題を使って別居するなら金を出さないなどといって経済的に苦しめてコントロールしようとしたり、子どもの親権を俺がとるぞと言って脅すこともあります。

妻が離婚したいと思っていて「離婚を言い出した夫の言葉」を逆手にとって離婚を進めるという場合も考えられます。夫側が「離婚する」といったものの、実際に離婚になって苦しむということは十分あり得ます。だから父親が精神的に苦しくなるのが子供の問題だけが原因とは言いきれません。

つまり「離婚を言い出したのは父親」ということが事実としても、その実態やそれにまつわる夫婦双方の心理は多様と言えます。

以上より、「それはあり得ない」などというのは実態を知った意見とは思えません。

大森氏が紹介してくださった「週刊女性」記事にも以下のような記述があります。 「本当に空気が読める子で、元夫に会って帰ってきたとき“パパ、謝ってたよ。許してあげーや”って私に言うんです。私はもう会いたくなかったので“近くだからまたすぐ会えるからなぁ。おもちゃもこっちに全部あるで”なんてごまかして……」

まず妻は「もう会いたくない」と言っています。夫から離婚を言い出したということにも留意すべき点があることがうかがえます。

子供も「空気が読める子」になっているということで、これは「夫・父との面会に何の問題もなかった」という大森氏の主張にも再検討の必要性がるのではないかと思わせます。子供が気を使って両親を仲良くさせたいと思っていい子になったりするのは面前DVゆえの対応とも読めます。そうしたいろいろな可能性があるので、「面会時は問題なかった」と決めつけるのはおかしいと思います。

●大森氏は私へのコメントで 「韓国では、離婚前から国によるカウンセリングが行われ、別居後も面会交流を継続させますが、伊丹市で起きたような事件は発生しておりません」 とも述べておられますが、これも極端な意見だと思います。

私は、離婚前から本当に離婚するのかと時間を一定かけて国によるカウンセリングが行われるようなことは一定有効ではないかと思っています。しかし、DVは韓国でもあるので、 「別居後も面会交流を継続させます」→「事件は発生しておりません」→だから面会させるべきだというようなことを主張するのは現実を踏まない空論と思います。

韓国でもDVがある以上、面会交流を拒否されるケースもあるでしょうし、まったく「面会交流にまつわる暴力事件がなかった」など言い切れないと思います。世界中で色々事件が起こっているからです。そこを平気で「事件は発生しておりません」と言い切れるその感覚が信じられません。

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DV問題にかかわる様々なことを議論しないといけないので、いくらでも書くことはありますが今回はこれぐらいでいったん止めます。 大森氏には釈迦に説法かもしれませんが、ネットで簡単に、親子断絶防止法にかかわる問題点を確認することができます。

参考 千田有紀 (武蔵大学教授)の一連のネット記事

「また起こってしまった伊丹市の面会交流殺人事件――離婚直後の面会交流のリスク」2017年 4/24

https://news.yahoo.co.jp/byline/sendayuki/20170424-00070247/

「支援があっても、「危険」は回避できない―監視付き面会交流は、子どもの利益か?」2017年3/24

「「別居のときに子どもの親権や面会交流について話し合うのは無理でした」-親子断絶防止法の困難」2017年3月8日

「面会交流によって、アメリカでは年間何十人もの子どもが殺されている」2017年2月28日

「長崎のストーカーの元夫をもつ元妻が殺害された「面会交流」殺人事件、警察は何ができたのか」2017年2月3日

「長崎ストーカー殺人、元妻はなぜ夫に子どもを会わせに行ったのか?」2017年2月1日

「オーストラリアの親子断絶防止法は失敗した―小川富之教授(福岡大法科大学院)に聞く」 2016/12/12

「裁判所の現状と虚偽DVや片親疎外論ー親子断絶防止法案の問題点(4)」 2016/11/6

以下、「親子断絶防止法案の問題点」(1)から(3)もある。

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もちろんこれ以外にも多くの議論がありますが、まずは千田教授の述べられている点も踏まえて、ご意見をお聞かせください。 私との議論はそういうことなのです。

私は、自分の経験と感性・思想・立場から

「そうしたことを真摯に受け取めて「どういう面会交流:共同親権にしていけばいいのか」を考えるのではなく、 親子断絶防止法を成立させればこの種の事件が起きないなんて、まったく論理的説得力がないし、無責任でバカな意見だ。」

と書きました。

今のところ、この主張を変える必要は全く感じていません。