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認識のゆがみ―――米朝会談と拉致問題とナショナリズム

 


米朝首脳会談がらみの報道での、日本のメディアの認識のがみがはなはだしい。


緊張が緩和し戦争が遠のくのがいいのは明らかだ。だからウォ―ゲームをやめるといった先に、米軍が韓国との主要な合同軍事演習を無期限に停止したことは歓迎すべきことなのに、まるでよくないことのように報道がなされている。

 

もちろん、米国も北朝鮮も人権問題ではひどい側面があるが、それは日本も中国もロシアも同じだ。何もかもを全部一挙に解決できない中で、戦争したがるやつらが悔しがるようなことは、ましな状況といえる。

 

 

さて、認識のゆがみが典型的に出ているのが拉致問題なので、それについて簡単にふれておこう。


米朝首脳会談で日本人拉致問題が解決するはずがないのに、日本のメディアでは事前にも会談後にも、「最大で最後のチャンス」「トランプが北朝鮮トップに言ってくれたことが奇跡だ」「大きく進展する」「日朝会談をもって今年中に解決」といった、楽観的主観的報道が相次いだ。

 

会談でトランプが一言「拉致」と話題に出して相手から拉致について何の反応もなかったことを前進だと喜び、まるで解決が目の前に来たかのような報道である。それはそのようにいう政治家などがいるからである。

妄想的希望的観測の典型というしかない。

そして拉致被害者家族の会いたいという気持ちが今回もナショナリストたちに利用されている。

 

「解決するはずがない」というのは、まず第一にこれまでも現在も日本が北朝鮮に敵対的な対応だけを続けてきたからであり、

第二に、米朝会談の主目的は非核化(という演出)であって、拉致問題など両首脳とも関心がないからである。

安倍が一方的に言及するように頼みこんだだけで、客観的に見ててなんら「全員生きて帰国」といったことが実現する見込みがないからである。

今後、日朝協議が持たれたとしても、日本が「まずは拉致問題の解決、それがないなら交渉には応じず、制裁も緩めない」といった今までの姿勢を改めない限り、拉致問題御交渉、解決の前進はないだろう。

一切妥協なく、経済支援もなく(――米朝会談後も「「拉致問題が解決されなければ経済援助は行わない」と首相発言――)、 まずは帰国の確約だといっている限り、妄想的願望するような「全員、生きて帰国という致問題の解決」といったものがあるはずがない。日本の側が勝手なことだけ言っていれば日朝会議でさえもてないだろう。

冷静に見ればそれが事実だ。

 

 

少し振り返れば、小泉政権時の2002年に拉致被害者が日本に一時帰国したときに、その約束を反故にして5人を北朝鮮に帰国させなかった。難しい判断の側面もあったが、あれによってその後の道が閉ざされるということは予想できたことだった(それでもいい、この5人だけでも助ける、というならその判断もあるが、それならその後も拉致問題を言い続けるのは無理がある)。


6か国協議の際にも、日本は「拉致問題」を持ち出して協議の進展を妨害した。その後、再調査をするということだったがその結果は解決済みというものだった。そして日本は対話や関係改善を拒否し経済制裁など圧力だけをかけ、北朝鮮制裁を日本だけ国際的制裁基準以上に独自に強化し、ほかの国にもそれを求めてまわった。Jアラートを広げ、ミサイル避難訓練もした。朝鮮学校補助金で差別したり、朝鮮総連関係へ嫌がらせをしたりもした。そういうことを続けたために、米国と並んで北朝鮮から最も反発される国となった。

 

たとえば北朝鮮は、2017年11月に「主人(米国)の北朝鮮敵視政策の実現御先頭に立つ忠犬(日本)のこざかしいふるまい」と言われたりしていた。このように緊張を激化させる方向ばかりで動いて来た。


トランプが首脳会談キャンセルを突然言ったときに、日本だけが「トランプ大統領の決断を支持する」と表明した(世界の恥さらし)。

日本は今でもこうした緊張激化の姿勢を変えていない。だから日本は自ら拉致問題の解決を閉ざしてきたのだ。

 

 

少し基本構図を整理しておこう。


軍備増強拡大願望派にとっては、拉致問題北朝鮮との対立)は解決してほしくない問題だ。

いつまでも対立して、こんな国叩き潰せという考えの人が増えて、自衛隊予算が増えて自衛隊が肥大化し武器が売れて儲かり、自民党支持が増えればいい。

 

同じ意味で非核化や緊張緩和が進むのがいやである。北朝鮮がドンドンICBM・ミサイルの発射実験してほしいのである。そうすれば脅威が高まっているといって軍備増強を言えるからである。


領土問題も同じ。だから尖閣諸島を国有化したり竹島の日を制定したり、教科書に領土問題を書き込んだり、北方領土問題を宣伝したり、朝鮮学校を差別したり、北朝鮮制裁を日本だけ国際的制裁基準以上に独自に強化したり、靖国参拝を強行したりして、韓国、中国、北朝鮮北方領土ではロシアと対立だったが、プーチンになって安倍はなかよし)と対立し続けるよう挑発してきた。その中心が安倍内閣だ。

 

 

そうして日本から挑発すれは韓中朝の中の、ナショナリストや右翼や軍人が呼応して極端な反日活動をする。中国との尖閣列島でのつばぜり合いなどその典型。日本側はまたそれを口実に、日本国民に「尖閣列島が奪われるぞ」「ミサイル攻撃や核攻撃されるぞ」といって軍事化と憲法9条改悪を進められる。「北朝鮮はスパイを送り込んでいるし、信頼できないからあんな国の指導者は殺すしかないぞ」「戦争をしかけられるぞ、領土を侵略されるぞ」といった恐怖心を植え付け、韓中朝を嫌うよう誘導し、敵国のように思わせる。


倍首相の拉致被害者救済の言葉は、いつも口先だけで、国内政治用のポーズ。本当は解決してほしくないから実際には解決に向けては何も動かず、北朝鮮に圧力をかけて対立を激化させるだけ

「全員、生きて帰国」ということを言い続ければ、解決せず対立が続くので、本当に家族のことを考えずに政治利用する人は「強硬ポーズ」「全員生きて帰らないと絶対にダメ」という主張を言い続けるだろう。拉致の現実の状況を認識するために調査をすすめるといった現実策を進める気などないままだろう。

 

 

半分はこの流れに乗せられて(気持ちを利用されて)、また半分は主体的に(長年の恨みから)、拉致被害者家族たちは北朝鮮憎悪の世論ムードつくりの旗振り役を担い担わされている

結果、その願望とは裏腹に北朝鮮との対立だけが高まって拉致問題の解決をみずからとおのかせている。

 

その絶望の気分から、一部家族会メンバーはこんな国には軍事攻撃を仕掛けての拉致被害者を軍事的に救出すればいいという妄想まで持っている人もいる。それが無理ならせめて恨みのあるこの国をつぶし、その指導者・金正恩を殺害してほしいと思っている。
そうした絶望的敵対心と軍事偏重志向が、拉致問題という話を通じて日本中に広げ続けられてきた。

その結果、明らかに日本だけが、「韓国や米国などを中心とした対北朝鮮との緊張緩和、戦争回避、非核化」への動きの外に置かれ、

北朝鮮から「日本はすでに解決した『拉致問題』を持ち出して朝鮮半島の平和の流れを阻もうとしている」

「日本の反動層がすでに解決した拉致問題を再び持ち出し世論化するのは、稚拙でおろかな醜態」「全世界が近く行われる米朝首脳会談を歓迎しているときに、日本だけがゆがんだ動きをし、『拉致問題』をもって再び騒いでいる

「日本は、拉致問題を持ち出して国際社会の同情を引き出し、過去の清算を回避しようとしているが、日本は朝鮮に対して過去の清算(賠償)を行うべきだ

拉致問題は解決ずみだが、言いたいことがあるならトランプや文在寅大統領に言わせるのでなく直接言ってこい」などと言われる始末である。

 

日朝協議というなら、当然、過去の戦争、慰安婦問題をはじめとして、日朝国交正常化、過去についての謝罪や賠償が問題になるだろう。国交正常化の際に韓国に経済支援したような経済支援が賠償として課題になるだろうが、それをする気が日本にあるかどうかだ。今は、まったくする気がないといっている。


「圧力と対話」といいながら国内政治と軍備拡大のために、「圧力一辺倒路線」をとってきた。それは政治的にも「リベラル/平和憲法維持派」を追いやり、右派改憲勢力を拡大する路線

 

国際的に見れば、イスラエルとならんで、プーチンやトランプにすりよる右翼国家の道を突き進む日本。(G7でも環境問題でも、ILOセクハラ条約でも、日本だけが米国追随)
今日は米国が国際的な人権機関からも離脱という暴挙。それでも安倍はトランプに媚び続ける。

 

そうした世界での特異な「米国のポチ」「人権問題環境問題軽視の国」と笑われている位置が見えない日本。北朝鮮の人権問題をいえる資格がない状況だ。


他の国に通じない歪んた内向き認識にとらわれ、歪んでいるとも自覚できない病理状況に陥っている。(一部は、ネットなどでたたかれるのが怖くて、真実を言えないという、戦前と似た心理状況)

 

それが今回もまた、浮き彫りになった。もはや喜劇である。

 

 

追記 2018年6月30日


その後、予想通り、日朝会議は遠のいている。


米朝会談後、何度も北朝鮮側から「拉致問題は解決済み」と言われている。日本の報道で、「北朝鮮が米国大統領に解決済みといわなかった(=だから態度が変わった)」という「希望」が多く出されたが、それは間違いだったことが判明。

 

北朝鮮は、マレーシアのマハティール首相やラオスのトンルン首相に対し、安倍首相が対北圧力への協調を求めたことに対して、「不安感に襲われた安倍は、朝鮮半島情勢を悪化させようという不純な策動に東南アジア諸国を引き込もうと愚かに画策している」と批判。


また安倍政権が配備しようとしている「イージス・アショア」に対しても、「良い方向に流れている朝鮮半島の雰囲気に冷や水を浴びせている」と批判。


そして「安倍勢力の総的目標は、日本を戦争国家にすることである。今まで日本は周辺情勢、特に朝鮮半島情勢悪化を口実に、武力増強に拍車をかけ、軍事訓練を頻繁に行ってきた。侵略戦争に出られる準備をほとんど整えた日本に今残っているのは、現行憲法を書き換え、法的名分を作ることだけである。だから、朝鮮半島情勢緩和ではなく、激化を望んでいる」と書いているが、それは日本の新聞よりずっと的を射ている。

 


従軍慰安婦に関する日韓合意に対しても、「「合意」なるものを前面に掲げて、凶悪非道な性奴隷犯罪が全部清算されたかのように宣伝している」「過去の罪悪を率直に認めて徹底的に賠償することだけが、日本が生きる道である」と主張した。


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日本側は上記記事で述べたよう、本気で拉致問題を進めようとしていない(日朝会談での平和的解決など求めていない)ということを、右翼自ら示している。


たとえば、右翼が集まっている超党派の「北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟」(会長=古屋圭司・元拉致問題担当相)は、6月22日、安倍晋三首相に「全ての拉致被害者の即時一括帰国」に向けた取り組みを申し入れた。古屋氏によると、議連が「北朝鮮と前のめりの交渉をしては得られるものはない」と訴えた。事実上、拉致問題のために北朝鮮と交渉するなというのである。

 

 

また幼稚な北朝鮮いじめが続いている。


神戸朝鮮高級学校(神戸市)の生徒62人が6月28日、「祖国訪問」を終えて関西空港に到着した際、約半数の生徒が、税関職員に北朝鮮の国旗などが描かれた化粧品や薬などの土産品を、経済制裁で持ち込みが禁止された輸入品だとして押収された。押収品には親族や友人からの贈り物も含まれていた。


これに対して、在日本朝鮮人総連合会朝鮮総連)は29日、日本政府に抗議する会見を開いた。徐忠彦・国際統一局長は「日本政府が対話を望むならば、非人間的な措置をやめるべきだ」と主張した。

 

 

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