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泥沼化する日韓関係に思う

泥沼化する日韓関係に思う
                            若槻 武行  2019/9/14 

  

日本と韓国の関係は、数年前まで良好だった。民間交流も盛んで、互いに理解し合い、韓国の食やドラマ・文化のフアンも増えていた。両国の信頼関係はゆるぎない筈だった。
しかし、最近の両国関係はどうか。マスコミを使って不信感を煽り立て、ヘイトスピーチや差別発言までまかり通る。偏見、歴史修正も加わり、憎悪を募らせる。表面の険悪さばかり目立って、問題の本質が見えてこない。そこで、両国の関係をもう一度見直してみたい。

日韓基本条約で残った最重要問題
日韓両国は1965年「日韓基本条約」を締結した。条文では、韓国を朝鮮半島における「唯一の」合法的な政府(第3条)であるとし、1910年以前の「韓国併合」などの条約の全てを「無効」とした(第2条)。
ただこの時、「併合」が〈日本による植民地支配だったか否か〉は曖昧だった。すなわち日本政府は、併合は植民地支配ではなく〈合法であった〉と解釈し、明確な反省や謝罪はしていない。一方、韓国は当然〈併合は植民地支配で不法〉とし、謝罪を要求する。
この最重要問題の曖昧さが、戦後の両国の不幸の始りであり元凶であった。――そう断言する識者は少なくない。当時、アメリカはベトナムへの侵略戦争を進め、韓国も派兵するという状況にあった。日本と韓国はアメリカの命を受け、条約の締結を急いだため、曖昧さを残すことになった。
条約締結時に「日帝36年」の植民地支配の謝罪がないことから、韓国では約80%の人が反対したが、日本でも多くの国民が反対した。当時大学2年だった筆者は、この反対運動に参加したものだ。
条約は根本のところが曖昧であったから、その後も条約と共に締結された「請求権協定」も含めて、たくさんの不備が指摘されている。

現金でないうえ「ひも付き」だった
損害賠償の「請求権協定」では、日本政府は韓国政府に対し、①3億ドル(米ドル;以下同)の無償供与と、②2億ドル有償援助と、③民間融資3億ドルの支援を行った。韓国はこれにより〈対日請求権を放棄する〉とした。
当時のレートは1ドル360円、韓国の国家予算は3.5億ドルだったので、膨大な額といえよう。韓国は日本からの賠償金や借款で、高速道路やダムなどのインフラを整え、経済成長を実現させた。それは「漢江(ハンガン)の奇跡」と言われるものだった。
①の無償供与には〈韓国人被害者の個人向けの補償金も含まれる〉との確認もあったというが最終的には曖昧だった。①と②の計5億ドルの無償・有償は、最終的に〈大韓民国の経済の発展に役立つもの〉とされた。その支払いは現金ではなく、日本の生産物や日本人専門家などの派遣費用でも良かった。それは、③の民間貸し付けもほぼ同様に行なわれている。
さらに無償の3億ドルは、その使い道の計画書を日本政府に提出する義務まで付いた。まさに日本企業の利益につながる「ひも付き」が実態だった。それでは被害者個人への十分な補償はできる筈もないではないか。戦前の日本の韓国併合・植民地肯定・歴史修正主義者共は、今回の徴用工の補償請求は「二重取り」だというが、その根拠がない。

個人の賠償請求権は残っている
サンフランシスコ平和条約や日ソ共同宣言では、日本側の補償請求権は〈消滅する〉としていた。すると、原爆やシベリア抑留の被害者から、被害請求を放棄したのは日本政府だから、日本政府に補償を要求する動きがあった。この時、日本政府は〈放棄したのは国の請求権の放棄だけ。個人の請求権は消滅していない〉と、被害者個人の賠償請求からから逃げている。
日韓請求権協定でも、朝鮮半島に資産を残してきた日本人から日本政府が補償を求められる可能性があった。これを逃れるため、日本政府は国会答弁や外務省文書などで〈個人の権利を消滅させるものではない〉〈韓国政府が放棄したのは韓国の外交保護権にすぎず、韓国人被害者個人の権利は存続している〉と説明している。この問題は当時、争点になることはなかった。
ところが2000年、日本政府は解釈を変更し〈外国人被害者からの賠償請求は日本政府に責任がない〉とした。同時に日本の裁判所も、韓国の被害者に賠償を日本政府に負わせる判決をしなくなった。
韓国では盧武鉉政権時代に、日本統治時代の被害者に対し法律を制定して個人への補償を行っている。同政権はその一方で、〈慰安婦などの個人に対する補償は請求権協定の対象外〉〈日本に請求できる〉とした。
この頃日本では中国の徴用工に対して、2000年に鹿島建設が、2004年に日本冶金工業が、2009~10年に西松建設が、2015年に三菱マテリアル等が賠償金を払っている。しかもそれは1972年の日中共同声明で中国政府が戦争賠償を放棄した後のことである。個人の賠償金は残っているとしたのだ。
ただ、安倍政権はあくまでも〈韓国は合法的な「併合」で、韓国民は中国人とは違い「日本臣民」だったから、中国人に対するような賠償義務はない〉と言いたいのだろう。
それでも日本政府は、サハリンの残留韓国人の帰国に対し、原爆で被爆した韓国人に対して、補償に代わる支援も行っている。安倍政権も2015年に「日韓慰安婦合意」に基づき10億円を出している。これらは〈為すべきことを為した〉までの当然のことだが、明らかに〈個人に対する賠償金〉に当たるのではないか。
国交回復以降、日韓関係は急速に交流が進んでいた。韓国は日本文化を解禁し、民間レベルでも交流が盛んになる。それと並行し日本政府や皇室は、過去の植民地支配の反省と謝罪を繰り返し行なってきた。

大法院判決で関係はまたさらに悪化
今日の日韓関係がこじれて政府間の対立が表面化したのは、安倍政権になってからだが、特に顕著になったのは、昨2018年10月、韓国の元徴用工が起こした裁判で韓国大法院の判決からだ。大法院は新日本製鉄(元日本製鉄)に対し、徴用工4人に対し各1億ウォン(約1000万円)の損害賠償支払いを命じた。
元徴用工たちは三菱重工業新日本製鉄を相手取る補償要求の裁判を、まず日本で起こしたが、すべて敗訴した。日韓条約と請求権協定で〈すでに解決済み〉というのが日本側の見解だった。日本政府とマスコミの主張を多くの国民は一応納得した。
でも考えてほしい。原告のうち2人は未成年の時に〈技術を習得して将来朝鮮の製鉄所の指導的職員に採用される〉という甘言の応募で大阪へ。待っていたのは生死にかかわる危険な重労働。賃金を受取っていない。他の原告は苛酷な労働と虐待の日々。逃亡を企て殴打されたこともあった。
生きて大法院判決を受けたのは94歳の原告一人。それを日本で報じたのは地方紙だけだった……。日本政府は謝罪も賠償もしないどころか、訴訟に介入して支払いや和解を妨害したり、事実を隠したまま隣国への憎悪を煽っている……。耐えられない。韓国の友人に顔向けができない。

歴史に残る「無礼」発言
日本企業に元徴用工への補償の責任・義務の有無は、繰り返すが、1911~45年の韓国併合、植民地支配が「合法」か否かに関わっている。日本は「合法」と解釈する。合法であれば払う必要はない。しかし日本政府は何故か、〈併合・植民地支配は合法〉とあまり強調していない……。
大法院の損害賠償支払いを命じた判決に対し、経済政策で報復した。「報復ではない」と言うが、明らかな報復である。
韓国大統領の代理である駐日韓国大使のこの点について発言を、河野太郎外務大臣は「極めて無礼」だと遮る。その「無礼」発言こそ「無礼」ではないか。河野大臣の父・洋平氏は宮沢内閣の官房長官当時の93年8月、慰安婦問題で「旧日本軍が直接あるいは間接に関与した」と認め「心からお詫びと反省の気持ち」を表明している。それは「河野談話」として日韓の歴史に残っているが、息子・太郎の無礼発言も、極めて残念ではあるが、歴史に残ることになるだろう。
安倍政権は「韓国は国と国の約束を守らない」と言うが、日本こそ歴代の政府高官や皇室の談話や共同声明等を守っていないのではないのか。これらは「約束」と違うと言いたいのだろうか。

反省と謝罪の時点に戻って話し合いを
安倍政権の対アジア発言の多くは、植民地時代の宗主国の発想だ。植民地主義は太平洋戦争の敗戦で死滅したと思っていたが、生きていたのだ。それは歴史修正主義者やネトウヨ、ヘイトらの恥ずべき言葉と同質だ。こんな言葉の先には何があるのだろう。
しかし、そんな風潮はいつまでも続く筈がない。日韓政府は真摯に話し合いを行なうべきだ。そのためには、日韓関係が良好だった時点に立ち返ることだ。日本政府高官が「反省」「謝罪」を語った時点に。
ただ、日本が韓国に直接行なった談話などは、その状況や解釈を巡りまた揉めるかもしれない。それなら、敢えて2002年9月の日朝平壌宣言でも良いと、筆者は思う。同宣言には、小泉純一郎元総理が「日本側は過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した」とある。この宣言は日朝両国で確認したもので、韓国でも歓迎されている。
日本政府はこの小泉表明まで立ち返って、話し合えないものだろうか。ここではネトウヨ歴史修正主義者の雑音を廃さなければ、収拾がつかないだろう。彼らは収集を望んでいないのだから。
韓国と日本は違いや嫌な所ばかり見ないで、お互いに良い所を見るようにしよう。それにしても、嘘で固まった安倍政権では、両国の関係はますます泥沼に陥るだろう。国民の皆さんがもう少し冷静に賢くなる以外に、解決できないのかもしれない。
   (環境団体役員,協同組合懇話会会員)