ABCテレビ番組「トリハダ『マル秘』スクープ」で「高校の純愛同級生が結婚9年DV 生き地獄 3度も命を狙われた妻」というものを紹介していた。録画してみることができた。
高学歴で細かいことにも気が付く、優しかったクリス(夫)だったが、途中から俺の言うことをきいていればいいんだと怒るようになって、エイミー(妻)をことごとくけなすようになり、それでも妻は長年我慢していた。モラハラ(精神的DV)がどんどエスカレートしていった。しかしエイミーは自分さえ我慢すればこの子どもたちは幸せになれると言い聞かせて耐え続けた。
しかし我慢しきれなくなって妻が離婚を切り出すとまず一度目のぼこぼこに殴る事件が起きた。それで妻は死にかけたが大手術で生き延びた。しかし彼には前科がなかったためわずかな金で保釈されてしまった。そして次に、接近禁止命令が出ているのに夫はまた妻に近づき「お前だけ幸せになるなんて許せない」といってこんどは銃で頭を二発撃った。自分がいないとダメな妻と思っていたのに、妻が自分なしで自立しているのを見て許せないと感じたのだ。
奇跡的に妻は命を取りとめ、夫は刑務所に収監された。離婚はでき、夫は終身刑的な判決を出された。しかし彼は獄中から元妻の殺人を依頼し、その金を母親に払わせようとした。
精神科医が彼を分析したところでは、
「彼はありのままの自分を愛せなかった。自分は特別の存在だと思い込む一方、心の底には強いコンプレックスを抱えていた。そのため、身近な弱者を攻撃して、優越感を得るように行動していた。クリス(夫)はエイミー(妻)を見下すことで自分が特別だと思い込んでいた。そんな時に見下していた彼女に離婚を切り出され、自分の人生を否定されたと強く感じ、殺意を抱くようになった」
ということだ。
2005年3月、エイミーとクリスの裁判対決がなされ、夫は30年の懲役刑となった。エイミーはようやく恐怖から解放された。
その判決の2カ月後、オハイオ州ではDVに関する法律が改定された。
その内容は、エイミーの活動によりDV加害者が安易に保釈されることがないようにされた。
というものだった。この法律の名前は「エイミー法」と呼ばれている。
エイミーが語る。「あのころの私は精神がズタズタでした。夫に服従して生きることもできました。でも私がその道を選んでいたら、彼への負けを認めたことになる。私は自分らしい生き方、自分の人生を取り戻したんです。」
そして今エイミーはDVについての講演を精力的にこなしているという。
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クリスの精神の在り方はかなり加害者の精神に普遍的にみられる構造である。
私なりにまとめると以下のようになる。
心の底に強いコンプレックスや不安、愛情飢餓を抱えている者が、それゆえに身近な弱者を攻撃して、優越感を得るように行動し、自分は特別で、愛される価値ある存在だと思い込もうとする。それを維持するために無理をして支配し続ける。
その相手が刃向う(抵抗する、反撃する、文句を言う)ととくに怒りが増幅し、自分が否定されたと感じ、ぜったいに手離さず暴力を強める。自分は苦しいので、それはその相手のせいだと思い込み、あいてが幸せになることを許さない。
ただし個別にはもっと複雑なものがある。一般論で切り捨てられない。
加害者一人一人が自分を見つめ、自分の歪みに気付いていくことが必要である。
加害者プログラムはそれを支援するものである。