ソウルヨガ

主流秩序、DV,加害者プログラム、スピシン主義、フェミ、あれこれ

政権批判する先生はダメなのか ①

 


先日、以下の記事を書いた。主に、三浦まりさんの発言を紹介したものだったが、背景には、私の経験もある。
2016-01-26
政権批判する先生は中立的ではないから良くない、という学生
http://hiroponkun.hatenablog.com/entry/2016/01/26/042321

 

先日、ある大学の講義で、私に批判的な意見が来て、それに答えた長いものがある。その一部を紹介しておく。

 

私は前回の授業でおおむね以下のようなことをさっと言いました。
「DV 問題がそうであるように、加害者がもういいだろう、と言ってこれ以上はもう話はしない、ハイ終わりと決めつけて被害者側に押し付けるのはまちがっている。加害者側が誠実に対応して、それを見て被害者が許すという気持ちになるのが基本だろう。戦争・日本軍「慰安婦」問題でも、加害側が「金をやるからもうこの問題は終わり」と相手に押し付けるのでは問題は解決しない。実際、昨年末の日韓政府の合意でも何ら問題は解決していない。10億円出す前提が、慰安婦像を撤去し、この問題を蒸し返さないこと、最終解決だといっていては解決しない」

 

それに対してある学生さん(Aさん)は反発心を感じたようです。

以下のような趣旨の感想を出しました。

 

「加害者が一方的に、はい、終わりってのはいけないと思いますが、なぜそこで慰安婦問題だしてくるんですか? スキあらば政権批判的な個人の意見を入れてくるのはどうかと思います。そもそも日韓基本条約で解決済みで、しかもその事実さえいまだ確たる証拠は出てきておらず、見解が分かれているのに、それを70年たってまったくそのことを知らない世代にも背負わせるというんですか?某国は千年経っても忘れないとか言っているんですよ?「あなたの先祖に、昔僕の先祖が500年前殺されてます。まだ許していません。一億円ください」といったら、「まあ加害者が決めることではないし」といって払ってくれるんですかね?別に個人がどんな思いを持っていても勝手ですが、そんな偏った意見を不特定多数の人の耳にいやおうなく入ってしまう場で発言するのは不適切だと思います。」

 

上記の私の発言は、Aさんには不快だったのだと思います。

私も、昔、大学の授業で近代経済学をしている先生がとても一方的に左翼批判・マルクス経済学批判をした時に不快に感じたことがありました。私の意見とかなり違っているなかで、授業という場で先生が一方的に私から見て「偏ったひどい感情的思想的意見」を言ったので嫌でした。今でも覚えているぐらいですから、
ですからあなたの気持ちは少しわかります。

 

しかし大学という場は、そのような様々な思想がぶつかる場と思うので、偏った意見があるのは当然だと思います。多様な先生、多様な意見があり、そういう中で議論が戦わされたり、学生さんはいろいろな意見を聞いて自分の考えを作ってていけばいいと思うので、こういう意見もあると知ってほしいと思います。これが第1の点です。

 

第2に、意見の違いを単位取得に適用させてはならないと思います。したがって私はあなたの意見が私と対立するからといって単位を落としません。昔、中国経済論で、私は先生と違う答案を書いたときにかなり中国経済について調べて意見を書いたのに、先生の見解・立場と違うので落とされたと思ったことがありました。先生からすれば質問に対応していないから落としたのかもしれませんが、私は、問いに対する答えと思ったので、思想の違いで落とされたという思いがありました。それが事実ならダメと思うので、私は単位認定に、思想の違いを使わないことを確認しておきます。

 

第3に、Aさんの意見内容に入りますが、「日韓基本条約で解決済み」という点には異論があります。(以下は、主に「日本軍「慰安婦」忘却への抵抗・未来の責任」( http://fightforjustice.info/
を参考に、簡単にまとめています。)


日韓基本条約は、韓国市場への進出を目指す日本、経済援助がほしい韓国、国際収支の悪化に苦しんで日本にコストの肩代わりを求めるアメリカの3カ国の利害が一致して実現した妥協的な国交正常化でした。


1965年6月22日に、日韓基本条約が締結されました。これに付随して同日、日韓請求権協定(正式には「日本国と大韓民国との間の財産および請求権に関する問題の解決ならびに経済協力に関する協定」)が締結されました。


同協定第2条1項には、「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」とあります。
この規定をもって、Aさんのような「解決済み」という意見が出回っているのです。

 

しかし、日韓請求権協定で「解決」された請求権は、「慰安婦」問題などの戦争犯罪による被害については想定されていなかったのです。日韓請求権協定が締結されるまでの交渉では、「慰安婦」問題はほとんど議論されませんでした。外交文書で一度だけ確認できますが、それは韓国側の代表が「日本あるいはその占領地から引揚げた韓国人の預託金」を議論する文脈で、「慰安婦」の事例を出したに過ぎず、「慰安婦」の被害に関する内容を含まないものでした。


韓国側の対日請求権の処理方法について、外務省は外交保護権の放棄だけを想定していました。外交保護権とは、自国民の権利侵害を国自身がこうむったものと見なし、国の裁量で行使するものというわけです。日本政府は日韓両国が外交保護権を放棄したことにより、私人の権利が消滅したかどうかを曖昧にしたまま、相手国または相手国民の財産をそれぞれ処分してよいと判断しました。


中国人「慰安婦」被害者についての事件に関する日本の最高裁判所の判決(2007年4月27日)は、サンフランシスコ講和条約及び日中共同声明の請求権放棄条項(以下「請求権放棄条項」という。)について、「請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではなく、当該請求権に基づいて裁判上訴求する権能を失わせるにとどまる」と判示しました。また、同日に出された中国人強制連行被害者の事件に関して、最高裁は請求権条項に関し上記と同じ論理を述べたうえで、「個別具体的な請求権について、その内容等にかんがみ、加害者側において任意の自発的な対応をすることは妨げられない」と判示しました。


裁判上の請求は認められないが、裁判手続の外で賠償を受ける法的権利としては残っているとしたのです。この最高裁の判決の論理は日韓請求権協定第2条第1項の解釈にも妥当します。


まとめると、日韓請求権協定第 2 条第 1 項は、日本政府が被害者個人に対する法的な責任を認め、法的な賠償を行うことについての障害とはならないのです。したがって日韓請求権協定では、日本の朝鮮植民地支配とアジア侵略戦争によって引き起こされた「慰安婦」の被害に対する歴史的責任の問題が解決されたと言うことはできません。

第4に、「(慰安婦問題の)事実さえいまだ確たる証拠は出てきていない」というAさんの主張は虚偽情報に惑わされた誤った見解と私は考えます。慰安婦問題については多くの証拠や証言が存在しており、裁判所でも学問領域でも多くのことが事実として認定されています。これまでの歴史研究や裁判所の判決等の成果を踏まえるならば、日本軍が主体的に「慰安所」を立案・設置し、管理・統制していた事実や、慰安所での性暴力が国際法や国内法に違反していたことなどを認めることができるというのが常識です。

 

ここでそれを全部展開することはできませんが、すこしでも勉強すればわかります。私が講義で配布した資料に示したような情報源からまなぶだけでも、多くのことがわかります。、たとえば日本軍『慰安婦』問題WEBサイト政策委員会編や、『朝鮮人慰安婦」と植民地支配責任 Q&Aあなたの疑問に答えます』(御茶の水書房、2015 年9 月)などの本をぜひ読んでほしいですが、簡単なアプローチとしてネット情報もあります。せめて
「日本軍「慰安婦」忘却への抵抗・未来の責任」( http://fightforjustice.info/)、その中のQAや「入門編」「解決編」の記述
「『慰安婦』問題ってなーに?」((http://kokoronokaihuku.blog.fc2.com/
日本軍の慰安所政策について 永井和
 (http://nagaikazu.la.coocan.jp/works/guniansyo.html
を見てください。

 

そこには、慰安婦がいたこと、強制性があったこと、悲惨な状況であったこと、日本国・日本軍にも責任があること、慰安婦は「公娼=商売女」などではないこと、などがわかりやすく入門的に説明されています。

 

例えば、日本軍「慰安婦」問題に関して旧日本軍の責任を否定する主張には、「慰安婦」問題そのものが『朝日新聞』の誤報によってねつ造されたというものがあります。そして多くの人は産経新聞のひどい記事などによって「慰安婦問題全体がねつ造だ」とか思う人も出てきて、Aさんのように「(慰安婦問題の)事実さえいまだ確たる証拠は出てきていない」と思う人も生み出しているのだと思います。

 

これについて簡単に結論だけ言うと、「慰安婦問題全体がねつ造だ」というのは完全に間違いだということです。そして(1)『朝日新聞』は朝鮮人慰安婦が女子挺身隊として戦場に連行されたというねつ造をした、という意見に対しては、『朝日新聞』だけの誤りではなく、当時の日本社会の「慰安婦」認識を反映したものだった、だから上記主張は間違いということ、

 

(2)『朝日新聞』は金学順さんがキーセンとして売られていたことを記事に書かず隠蔽したという意見については、金学順さんの被害とは関係のないことがらなので他紙でも報道されていないので子の主張も誤り、

 

(3)1992 年1月11日の『朝日新聞』の報道が「強制連行」という誤解を生み出した、という意見も、同日の『朝日新聞』記事本文に「『慰安婦』は強制連行された」という記述はないので謝り、ということです。

 

1992年1月11日の『朝日新聞』朝刊は一面トップに「慰安所 軍関与示す資料」という見出しを掲げて吉見義明さんが防衛庁防衛研究所図書館で発見した公文書について報じました。この報道はまちがったものではありませんでした。記事の焦点は、それまで日本政府が旧日本軍慰安所について国としての関与を否定してきたにもかかわらず、「軍の関与」が明らかになったことに当てられています。

続く