ソウルヨガ

主流秩序、DV,加害者プログラム、スピシン主義、フェミ、あれこれ

オトナヘノベル「デートDV 女性が加害者 モンスター彼女」

 

2016年9月に放送された NHK/オトナヘノベル「モンスター彼女」は、デートDVの女性が加害者ケースを取り上げていて、いい番組だった。

 

このオトナヘノベルは、毎年、デートDVやストーカー、ネット被害(リベンジポルノなど)を取り上げており、今の若者を取り巻く問題に、ドラマ形式でわかりやすく問題提起しているので、素晴らしいと思います。今回も、ドラマ形式でうまく作っていました。

 

今回、最近よく言われている女性が加害者のケースを取り上げました。一部フェミニストや被害者支援の人のなかには、女性が加害者ということに抵抗がある人もいるかもしれません。

 

たしかに一見女性が加害者に見えてもそこには男性からの暴力加害があっての結果とか反発の場合もあるからです。また数字的に見て多いのはまだまだ男性加害者の方ではないかという問題、質(DV被害の程度)としても、女性が男性に行う束縛や言葉の暴力や身体暴力などの場合、男性が女性に行うほどの恐怖感があるのかという問題――つまり女性が男性に行DVはそれほど程度がひどくないものが多いという問題―――などを考慮すべきだからです。

 

そういう点では、今回の番組は、すこし一面的に、最近の「女性から男性の暴力も多い」ということに寄り添いすぎだという批判はありうるでしょう。

 

私は、それは当たっている面があると思うのですが、30分弱の中で、今まで男性加害者を扱っていたので、女性の方の加害者の場合もあるよと伝えるのは、あってもいいと思います。批判だけでなく、今回の番組の積極性を見るべきと思います。現実はこうしたものもあるのですから。

 

事実を謙虚に見て、程度が軽くても、女性が行っていることのなかに加害性・攻撃性といったDV性・暴力性があることを素直に見つめることは、今後、全体的にDVが減ることや、カップル間の対立を減らし、関係を改善していくうえで大事と思います。
私は実際に女性加害者という方の話も聞いており、その暴力性で殴るけるなどがかなり強烈なものがあることを知っています。

 

DVは原則的には加害者が悪い、被害者は悪くないといいます。それは原理的にはそうです。しかし私は拙著「デーDVと恋愛」で「相互DV」という概念を提起しましたが、これをまともに受け止めているものをまだ見たことがありません。(口頭では同意してもらうことはありますが)

 

相互DVとは、双方がある局面で加害者になったり被害者になったりするような相互にDVする関係があるということです。

 

双方のうち各人一人一人が、例えばAさんが加害者の場合、その人がDV言動を選択している点で100%悪いのです。だから上記「加害者が悪い、被害者は悪くない」ということがここでは適応されます。しかし別の時点でBさんがAさんに加害行為をしている時は、Bさんが100%悪いのです。ここでも上記「加害者が悪い、被害者は悪くない」ということが適応されます。

 

つまりいったん被害者とされたらずっと加害者にはならないということは保証されないことを認めるべきなのです。

 

 

くわしくはまた拙著で示していきたいと思いますが、時間経過も含めつつ評価していくことが必要で、いつまでも「被害者は悪くない」と単純に言い続けて実際の人物に一面的に当てはめることは、相互DVや女性の加害行為を見落とすことになり、問題の改善に寄与しないことになるということを認めていくべきです。


被害者はひどい被害を受けて傷つき、病んでいたり混乱していたりするので、当初は混乱し、攻撃的になったりするのは配慮されるべきであり、みまもられ受容される時期が必要です。しかし、被害者という地位をいつまでも使うとそれは途中から徐々に「乱用」するという問題になる場合があります。


これは他の差別問題でも見られた問題です。

「弱者である」という看板カードを使って自分の勝手な意思や支配的言動を正当化する、押し付けるような暴力性が過去にもあったのです。

 

 

ここは微妙なケースが多くあり、何でも使い方を間違うと逆の間違いになるので丁寧にバランスよく見ていかないといけませんが、

運動内では時にそうした「弱者の横暴性」が通じることがあることにも謙虚に向き合うことが必要と思います。ハラスメントだといえばいいというのは間違いですが、それを乱用する人は「学者系」「運動系」のなかでもいます。

差別された、暴力を受けた、傷ついた、ハラスメントだといえば何でも通じるということではないのです。


私は従来からこれに関して、自分の加害性に皆が敏感になることこそが大事で、―――被害性を獲得する意義がある場合もありますが、―――被害性を前に出すことによる《自分の暴力性を見落とす危険性》に注意すべきと思ってきました。

 

それは男性であるからこそ得やすい視点かもしれません。女性である、部落出身者である、障害者である、うつ病者である、LGBT、若手研究者である等ということの、当事者性のプラスとマイナスを考えるべき時です。当事者主体ということの意味や意義、範囲、にもかかわります。

 

私はDV問題をジェンダー中心でとらえすぎることのバランスの悪さ(不足性)を素直に認めるべきと思い、カップル単位の問題として枠を広げて、女性加害者も含みこむ構図でとらえました。

それは被害者(女性も男性も)自身がカップル単位の恋愛観、暴力容認意識に囚われていることの問題にも目を向けることになります。ジェンダー視点だけですむと思うのは現実を見ていない姿勢です。

 

ということで、今回のオトナヘノベル番組は、評価が分かれるでしょうが私は意義あるものと見ました。

 

なお、バックラッシュ側がジェンダーを含めて、DV概念自体を攻撃する時代ですから、そこへの目配りも大事です。

わかりやすく言えば、バックラッシュ側、無理解な人が、
「男性も被害に遭っている、女性がなんでもDVとギャーギャー言うな」「女性が言えば何でも信じてもらえるが、でっちあげもあるぞ」というような流れとして「逆DV」「でっち上げDV」論もあるので、そこに加担しないように常に注意することとも必要です。

 

これらについてはすでに拙著≪3≫≪4≫≪5≫≪1≫で論じてますが、見ている人が少ないので、指摘しておきます。

 

≪3≫『デートDV・ストーカー対策のネクストステージ―――被害者支援/加害者対応のコツとポイント』 (解放出版社、2015年2月)


≪4≫伊田広行著『デートDV/ストーカー蔓延の実態と背景――― ストップ!デートDV 2』 (2015年4月、電子書籍Kindle版、アマゾンで購入可能)


≪5≫『続 デートDV・ストーカー対策のネクストステージ』
(DV電子書籍NO.2、Kindle版、アマゾン、2015年、5月、601円)

 

≪1≫伊田広行著『デートDVと恋愛』  (大月書店、2010年)
≪2≫『ストップ! デートDV――防止のための恋愛基礎レッスン』    (解放出版社、2011年)

 

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞