ソウルヨガ

主流秩序、DV,加害者プログラム、スピシン主義、フェミ、あれこれ

『ティエリー・トグルドーの憂鬱』

 

『ティエリー・トグルドーの憂鬱』(フランス LA LOI DU MARCHE)
をみた。

 

面白そうだったし、「フランスで100万人が観た圧巻の大ヒット社会派ドラマ」というので、見た。


事前情報通りで、まあ、切なく面白かったが、地味な映画だった。

 

主人公の51歳の男、ティエリーは解雇されて、組合をとおして戦ってきたが、穏やかな生活をしたいとか、いって、外れていった。話し方も下手で、頑固で、そして組合運動からも外れて、
まちがった判断だと思うが、まあ、庶民のひとつの姿だろう。


行政の人も日本と同じくあまり役に立たないが、それにしても、がんこに文句言うだけで、再就職できないのはまあ自己責任のところもあるような人。解雇には戦えばいいが、職業訓練ですぐに仕事に結びつかないことへの憤りは気持ちはわかるが、対応が適切でなく、戦うべきところで戦わないで文句だけなので、主人公の男は魅力的な人物ではない。

流されていく敗北者だ。


障害のある息子への態度でも、妻との関係でも、地味な下手な関係の持ち方の人で、幸せになれたらいいが、むつかしそうな人。

 

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で、この映画、フランスでは、なぜ受けたかというと、僕の見たところ、日本よりも、もっとフランスは従来から近年まで牧歌的、余裕がある社会だったのに、今の日本のようになってきて、そのせちがらさに、締め付けられるような苦悩を監督も主人公も持って、それが観客にも共有されたからだろうと思う。

 

就職面接の練習でもへたくそで、皆にぼろくそにいわれる。痛々しい。いまさら言われてももう彼はなかなか自分を変えられない。

 

で、ようあやくありつけた仕事がスーパーの警備員。万引きの監視、監視カメラを凝視して、悪いことをする人を見つけるという、なんともしんどい仕事。
僕ならあんな監視画面、見続けたらすぐにしんどくなる。

 


で、同僚の、ほんの小さな不正を見つけることになる。クーポンをとるとか、カードを持っていない客のポイントをとるとか。
わずかな金額だ。現金でもない。

 

多分、従来は許されていたのだ。日本じゃダメという人が多いだろうけど、まあ、大目に見てもいいような程度のこと。

 

で、そんな仕事に、喜々と頑張る人が日本ではいそうだが、この映画ではフランスの風土の中、そこにもう我慢できなくなってくる。

 

ああ、この映画、日本じゃ受けない。万引きするやつが悪いという単純な経営側に立つ人間が大多数だから。主流秩序が強くて従属している人に、この映画の主人公の、主流秩序に従属していく苦悩と切なさはわからない。

 

僕はむしろ、この主人公の魅力のなさに面白さを感じた。
せこいというか、だめというか、下手という感じ。

わずかの金も借りないといけない。合理的にやっていけない。でも、フランスなら普通の労働者が、キャンピングカーなど持てたのだ。でもそれを売らないといけない。安く買いたたかれる。
くそ、と意地になってしまう。どうしようもない行き詰まり感。

それが出ている映画。

 

お金、お金、お金、
日本社会のようになっていくフランスを見た。
その変化についていけない人間の悲劇だった。

 

チラシには「まだ勝負は終わっていない」というキャッチコピーがあった。

そうかな?そんな風な映画だとは思えない。


主人公のティエリーは、もうすっかり勝負に負けている。勝負は終わっている。そこからの一歩があるかなとは思うけど、もう、勝負ではないのだ。

 

このキャッチコピー、この映画が分かっていないと思う


告発によって、従業員の一人が自殺するが、それに惑わされるな、皆の責任じゃないという上司。ああ、こんな仕事をするかな。

 

ミニシアター作品としては異例の100万人を動員する大ヒットといい、賞もとっているが、日本じゃすぐに上映打ち切りになるだろう。

 

フランスの普通の貧乏な人の地味な生活が見れる、いい映画だ。90分、フランスに行けた。