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主流秩序、DV,加害者プログラム、スピシン主義、フェミ、あれこれ

<宇都宮爆発>犯人はDV 加害者—--DV加害者放置が原因の一つ


この事件、DV加害者の愚かな犯行ですが、彼を放置するだけで、彼の更生を探ることがなされなかったことが事件の背景にあるように思います。一言でいえば、DV 加害者対策が不十分なことが原因のひとつだと思います。


DV 加害者プログラム(NOVO)を行なっているものとして、以下、そのことを初心者の方にもわかるように説明しておきます。マスメディアではこうした指摘がなされていないように思います。

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2016年10月23日に、家族連れでにぎわう祭り会場・宇都宮市城址公園などにおいて、72歳の元自衛官(1999年定年退官)の栗原敏勝・容疑者が、金属片などを飛ばす殺傷能力ある爆発物を使って、爆発自殺事件を起こし、自分が死亡し、無関係の市民3人が巻き添えを食ってけがをしました。
栗原容疑者の靴下には、家庭内の悩みとともに「命を絶って償います」と書かれた遺書が挟まれていました。

 

報道や栗原容疑者自らが開設したとみられるブログや動画投稿サイトなどから明らかになったこと(2015年末以降)は、

以前から夜中に栗原容疑者の怒鳴り声が近所に聞こえていたこと、夫婦間で口げんか(DV)が絶えなかったこと、娘の病気の治療方針をめぐって妻と不仲になったこと、その結果5年ほど前から妻子らと別居、1人暮らしをするようになったこと、妻からDV(ドメスティック・バイオレンス)で訴えられ、妻と三女はDVシェルターに駆け込んだこと、接近禁止命令が出されたこと、

退職金2千万円を妻が宗教につぎこんだとと訴えていたこと、離婚を巡る訴訟で、DV加害者と決めつけられ夫(自分)の言い分が全く聞かれず敗訴したこと、「国家による冤罪判決で生きる道を絶たれた。冤罪判決であるので判決に従わない」、そのため資産を差し押さえられ自宅が競売にかけられるなどによって経済的に行き詰まっていること、栗原容疑者は2013年ごろから県精神保健福祉会の相談員をしていたが今年6月、相談員として不適切な行動があったとして問題視され、退会させられたこと、「都宮家裁判事・調停員・書記官から真綿で首を絞められ死刑判決」を出されたといった家裁調停員や裁判官への不満、「家裁は老後は刑務所に入って生活しろと言わんばかりである」という怒りなどでした。最近は、一方的に「国家権力」に虐げられているとの“被害者意識”を膨張させていました。

 

これらに対して世間に不満を訴えたいが、ネット世界でも炎上せず、多くの人が知ってくれない、「6年もSOSを出している」のに無視されているので、「自暴自棄」になって何か事件をおこして「ネット炎上を期待して」「大げさにしないといけない」と考えて犯行に至ったようです。

「大きな事件にならなければ問題に見向きもしない、現代の風潮に不満を持っている」との音声もアップされていました。

 

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以下私のコメント

 

自分のDVを反省せず、逆に勝手に被害妄想を持ち、行政や裁判所や警察がひどいと憤る加害者はいます。ただ、そのDV加害者が悪いとしても、自分の行った行為がDVだとわかるように教えられる場が必要です。そのためには、窓口で追い返すだけではだめでしょう。

 

行政(役所、警察、女性センター、配偶者暴力相談支援センター、弁護士のところなど)のどこに行っても、電話相談に電話しても、「被害者のことは何もお答えできません」と言われるだけで、なんの「サポート」「情報提供」もなく、気持も聞いてもらえず、追い返されるだけなので、加害者の一部は逆に怒りを増幅させてしまうのです。

孤立感を深め、絶望感を持ち、唯一の情報源であるネットのひどい情報に“洗脳”されることもあいまって、「社会は被害者の一方的味方だ」と思って、「でっち上げDVだ」とか「冤罪だ」とかと憤てしまうのです。

 

配偶者暴力相談支援センターなどは、「女性被害者を守る」ということから「どこに逃げているかも隠す、何の情報も言わない」、という方針で来たのですが、それは古い段階のときにはしかたなかった対応ですが、DV防止法ができて15年もたつのに、初期の対応のままで、何ら加害者対応を進めていないので、こうした男性加害者の「逆恨み」を誘発してしまうような状況になっています。


この「古い段階での対応」のままなかなか動かない背景には、支援者が自分たちを守るということで、加害者を恐れて、とにかく加害者に接触しないようにしてきたこと、加害者は変わらないという「神話」を加害者の実態も知らずに信じ込んできたこと、があります。


その副作用として、被害者支援としても、被害者には「加害者は変わらないからとにかく逃げなさい、別れなさい」というばかりで、被害者の多様なニーズに対応できていなかったという問題が発生していました。

 

いま必要なことは、加害者の気持ちを聞きつつ、DVの学習を保証し、自分の対応の間違い(DV 性)に気づいてもらい、被害者への償いをしていくことで責任を取るような人になっていくようなプログラムに参加させることでしょう。
被害者を恨むのではなく、むしろ被害者の安全・成長に配慮し、被害者の意思を尊重するように態度を変えていくようにするプログラムが必要です。

 

そのためには私が拙著でも主張しているような、総合的な「DV被害者/加害者対応の確立」が必要です。DV 加害者といっても、私が行っている加害者プログラムに来るような「真面目にDV を反省して自分を非暴力に変えていこうとする人」もいます。女性でも自分の加害性に悩んでいる人もいます。児童虐待する親(面前DV してしまう親),ストーカーを含め、加害者への再教育(カウンセリング的要素を含む)の場が必要です。

 

今回、怒りを勝手に増幅させたことの背景には以上の実情があると思います。

もちろん、この栗原敏勝・容疑者が、加害者プログラムを紹介したからといってやってきたかどうかはわかりませんし、そこに通いつづけて自分の考えや行動を正しく修正したかもわかりません。しかし少なくとも「そのルートがあるよと紹介して、彼の話を聞く場につなげることがあれば今回のようにならなかったかもしれない」とは言えます。(参考:後の載せた「害者の程度/質による分類が必要」参照)

 

◆イダヒロユキ作成「DV加害者の分類」図

f:id:hiroponkun:20161024185635p:plain

 

このDV 加害者プログラムは精神科医やカウンセラーならだれでもできるということではありません。加害者プログラムのガイドラインを作り、それを行える専門家を養成し、全国各地に加害者プログラムを行う場を作ることが必要です。医者、精神科医、カウンセラーがDV加害者プログラムを学ぶことが必要です。とくに、個人カウンセリングではなく、グループワークであることが実際的にはとても重要です。被害者の話を聞き、被害者支援と一体になることも必要です。加害者だけに個人で会っていては、効果はあまり期待できないと思います。ましてプログラム実践者が被害者のこと、DVのこと、フェミニズムのことを知らないと効果は低いと思います。


●今度大分で行われるシェルターネットの大会で、DV加害者プログラムの最新事情と今後の課題について論じあう分科会を、信田さよ子さんたちと持ちます。
早く被害者支援のためにも、社会からDV関連事件を減らすためにも、加害者プログラムについての認識と実践が進むことが望まれます。 .

 

なおそこでは、2016年3月発表の内閣府「配偶者に対する暴力の加害者更正に係る実態調査研究事業」報告書の水準が出発点にされます。被害者支援の人も、行政も、社会も、メディアの人も、まずはこの報告書を出発点としてほしいと思います。

 

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以下拙著『デートDV・ストーカー対策のネクストステージ――被害者支援/加害者対応のコツとポイント』(解放出版社、2015年)などからのポイント

 

◆必要な総合的なDV 対策
①被害者支援 直後、シェルター→拡大
 長期支援、ケア → 一層の充実
②子どもへの支援 → 開始、拡大
③加害者教育プログラム → 開始、拡大
④DV防止教育 → 拡大、充実、義務化
⑤支援者向けの研修プログラム(被害者の自己責任にしないことが現実的)→充実 
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加害者プログラムの必要性
①社会全体で加害者を減らすため、
②被害者(子供も含む)を守るため、
③被害者のニーズを満たすため、
④真面目に反省して変わりたいと思っている加害者を支援する、(家族を愛し、失いたくないと思い、憔悴している、自分を本当に変えたいと思っている)、
⑤本当に知らずにしていた人に学ぶ機会を保障する

 

◆加害者の程度/質による分類が必要
  良質加害者とは、DVをしたがそれを反省して自分をDVしない人間に変えたいと思い、加害者プログラムに通おうと思うような加害者である。やってしまったDVの程度が軽い加害者というわけではない。ひどい身体暴力をした加害者でも反省している人物はいる。
無反省悪質加害者とは、DVをしたがそれを反省せず、自分をDVしない人間に変えたいとも思わず、したがって加害者プログラムに通おうとしないような加害者である。行ったDVの程度が相対的に軽いとしても(例えば言葉の暴力だけ)でも、反省しない加害者は無反省悪質加害者である。
なお、加害者の中にはDVのことを学ばないとDVと気付かないような人が多いが、被害者やその他まわりの人からDVと伝えられて、変わるように突き付けられた後に、加害者プログラムに行こうと思うような人が「良質加害者」であり、行こうとしない人が無反省悪質加害者である

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◆弁護士の在り方
両方の言い分を聞くことの重要性
被害者の実態を知ること
加害者への勝手なイメージを変えること
DV,ジェンダーについての基本的素養
支援の在り方の幅を広げること、当事者の決定の尊重
従来の対立視点だけでは不十分(もちろん、悪質加害者には戦うことも重要)
 加害者の分類  対応を変える必要