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非正規公務員の法律改正問題―――官製ワーキングプア研究会コメント


官製ワーキングプア研究会が改正法案に関するコメントを発表しました。
 
 下記、転送自由です。拡散してください。


NPO法人官製ワーキングプア研究会コメント
官製ワーキングプア解消とは程遠い地方公務員法地方自治法改正案

 

 政府は3月7日、地方公務員法及び地方自治法の改正案を閣議決定、今次通常国会で成立させ、2020年4月1日に施行する予定としている。

 

 今回の改正案は、臨時・非常勤職員等地方自治体で働く非正規公務員の採用(任用)根拠を明確にし、さらには期末手当(賞与)を支払うなどの改善が図られるとされている。

 

地公法改正案のポイントは、同じ事務職員でも「臨時職員」「特別職非常勤職員」「一般職非常勤職員」というように自治体ごとにばらばらで、制度の趣旨に合わない不適正な採用実態であったものを、「会計年度任用職員」という採用類型を新設し、これに統一するというものである。

 

そして自治法改正案では、会計年度任用職員に支払う給与、手当などを整理、規定した。しかし、この改正によって地方自治体で働く職員の3人に1人、総務省調査で64万人にまでなった非正規公務員の処遇が改善すると考えるのは早計である。
 当研究会は、主に以下の点に関する危惧を表明し、改正法案を再検討すべきことを強く訴える。

 

1.経過を逸脱した欺瞞の法改正

 地公法改正案では22条の2を新設し、会計年度任用職員とした。ところが処遇に関しては規定が異なる。

「1週間あたりの通常の勤務時間に比し短い時間であるもの」=パートタイム会計年度任用職員には、生活保障的な要素を含まない報酬と費用弁償に加えて期末手当を支払うとしたのに対し、「一週間当たりの通常の勤務時間と同一の時間であるもの」=フルタイム会計年度任用職員には、勤務に対する反対給付で生活給としての給料、手当(扶養手当、退職手当等)を支払うとしている。

 

 パートとフルの処遇が異なるという考え方は、昨年12月にまとめられた総務省の臨時・非常勤職員等のあり方研究会の報告にはなく、「常勤職員と同様に給料及び手当の支給対象とするよう給付体系を見直すことについて、立法的な対応を検討すべき」とのみ記されていた。この報告を受けて1月に与党や地方団体等の協議に付された自治法等改正案原案の概要では、「会計年度任用職員など労働者性が高い一般職の非常勤職員について、常勤職員と同じく給料・手当の支給対象とする」としていた。

 

 ところが3月7日に閣議決定された成案では、フルには給料と手当、パートには報酬・費用弁償と期末手当を支払えるとしたのであり、報告書以降の一連の経過からも、この間の裁判例からも大きく逸脱した。

 

たとえば、枚方市非常勤職員一時金等支給事件(大阪高判平22・9・17)では、「常勤職員の週勤務時間(38時間45分)の4分の3に相当する時間以上」勤務している非常勤職員について「常勤の職員」と判定し、給料・手当が支給される対象とした。

東村山市事件(東京高判平20・7・30)では、「嘱託職員は勤務時間のみならずその職務内容も常勤職員と同様であり、勤務実態からみて常勤職員に該当する」とし、常勤職員と同じ仕事をしていれば「常勤の職員」と判定している。

 

成案では、判例上「常勤の職員」と認められてきたパートの非正規公務員から、将来に渡って退職手当をはじめとする様々な手当受給の権利を奪ったことになる。

 

 なぜ、報告書や原案から逸脱していったのか。

 

 第1に、地方から「手当支給による財政負担の増加が見込まれる中、議会等の理解が得られるためには、国レベルで支給されている手当に限定すべき」という意見が寄せられたからである。

第2に、パートの会計年度任用職員を給料・手当の支給対象からはずし、報酬・費用弁償のままとしたのは、これまで通り非正規公務員への賃金を消耗品代である物件費に計上し、地方財政計画上の給与関係経費ではなく一般行政経費に計上するためであった。

 

 すなわち正規公務員と同様に、住民福祉の向上のための公共サービスを担う労働者性ある会計年度任用職員の処遇を改善する必要性は、まったく顧みられることなく、他事事項を考慮した結果だった。

 

2.格差是正につながらない法改正

 今回の法改正は、政府方針としての「同一労働同一賃金原則」に基づき、正規・非正規間の格差を是正することによっている。

昨年末の厚生労働省及び内閣官房の「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」中間報告(12月16日)では、ガイドライン案に基づき民間が具体的に取り組むに当たっては、「比較的決まり方が明確であり、職務内容や人材確保の仕組みとは直接関連しない手当に関しては、比較的早期の見直しが有効かつ可能と考えられる」とされ、手当の見直しに優先的に取り組むべきことが指摘されている。

 

 ところが成案は、政府方針の一環をなす上記ガイドラインからも逸脱している。なぜなら、パートであるという要件のみに基づいて、期末手当以外の諸手当を支払えないものとしたからである。

 

 民間労働者の正規・非正規間格差は、賃金水準では正規の6割程度と言われている。これに対し、地方公務員の正規・非正規間格差は、事務職員の場合、正規公務員の年収が630万円程度に対し、非正規公務員は170万円程度と試算され、正規の4分の1の水準に過ぎない。このような絶望的な格差は、期末手当の支給を3年後に認めるというだけでは到底是正できない。

 

 地方公務員における正規・非正規間格差に正面から向き合い、持続可能な公共サービスを展開するために、格差是正につながる非正規公務員の処遇改善方策こそ求められている。

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3.事業主たる地方自治体に非正規公務員の処遇改善が義務付けられていない

 

 政府は、非正規労働者の待遇改善を目指す「同一労働同一賃金」の実現に向け、正規と非正規の労働者間に待遇差を設ける場合、企業の説明義務を法律で明記する方針を固め、3月8日に開催された有識者検討会において、労働契約法、パート労働法など関連3法改正に向けた論点整理案を示した。

 

 一方、非正規公務員は、これら非正規民間労働者の処遇改善法制から排除されている。したがって、事業主たる地方自治体は、非正規公務員を何年使用しようが無期雇用に転換することも、雇用期間を長くすることも義務付けられず、恒常的な業務に従事させているにも関わらず、必要以上に短い期間を定めて非正規公務員を採用し、その有期雇用を反復更新し、いざとなったら解雇に類すべき雇止めを行うという、およそ民間労働者に適用される法環境では許されない行為を、何の痛痒も感じずに「適法」に執行してきた。

 

 そして、パート労働法が非適用なため絶望的な格差を埋める義務も免れてきた。さらに、民間では事業主に今後課される待遇差の説明義務さえ免れ、非正規公務員ワーキングプア水準の賃金で働かせることが、適法に処理されるのである。

 

これは労働基本権についても同様である。一般職地方公務員は正規・非正規を問わず労働基本権を奪われてきた。今回の措置は、これまで一応の労働基本権を保障されていた特別職の多くを同様の条件に繰り込むことになりかねず、その面では改悪となる恐れもある。

 

現行の非正規公務員の労働条件や、その改善のための法環境は、民間に比べて大きく遅れている。どのような中小零細企業事業者でも義務付けられている処遇改善に向けた方策を、地方自治体の使用者にも義務付けること、そのことによって、はじめてスタートラインに立てる。

今回の改正法案は法制度の整備という性格からもひとたび制定されれば問題点が固定化され、取り返しのつかない事態にも繋がるので、一度廃案とし、当事者にとって真の改善になる法制度改正を改めて検討することを強く求める。

 

2017年3月20日   NPO法人官製ワーキングプア研究会