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佐藤文香さんの重要な指摘――「戦時の女性利用」と「マッチョへの抵抗感」

佐藤文香さんの重要な指摘――「戦時の女性利用」と「マッチョへの抵抗感」

2022年8月17日

 

悪い侵略国家ロシアと戦うウクライナの一面的肯定への認識的抑制として、以下の佐藤文香さんの指摘は重要と思います。

女性が戦争体制に利用される構図を見抜くこと、女性が軍隊に参加するのがジェンダー平等という単純理解ではだめという指摘は全く同感です。

 

私が「軍事的勝利、停戦などの上から視点の解決」でなく、「戦争になった国の一庶民の立場で、逃げることがいかに大事な選択肢か」という主張、そこを制限するウクライナの男性への脱出禁止、ナショナリズムを煽って軍事力による勝利を目指す一面性への批判意識の重要性が分かっていない人が多すぎると思います。

むかしの武装闘争、暴力革命、新左翼のゲバなど左派でも武闘派がいる(いた)のは分かりますが、やはりマッチョへの反省/嫌悪感が日ごろからどれだけあるか、ジェンダーフェミニズムへの従来からの接している程度、DV などの暴力への感性が反映している感じがします。

ウクライナの民衆は「戦わされている」のでなく、主体的に侵略と戦っている、侵略する国とされる国を区別しないとだめ、という構図で、ロシア批判だけを言うのは、昔の第二次世界大戦時の戦争イメージで語っている面があり、また、防衛相防衛研究所などの路線と非常に近いことを認識すべきと思います【注】。

 

【注】その典型のひとつが千々和泰明のような意見。これは中立を装いながら非常に好戦的な見解で、軍事力で有利になること、『妥協的和平』は禍根を残すので『紛争原因の根本的解決』をすべき、つまり悪い相手国を徹底的につぶすのがいいという非常に自国中心主義、自分は正しい側、暴力主義的な立場。私は危険なスタンスと思い嫌悪感を覚える。

(インタビュー)戦争はどう終わるのか 政治学者・千々和泰明さん:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/sp/articles/DA3S15386161.html?iref=sp_ss_date_article 

 

 

プーチンが悪いからウクライナの徹底抗戦を支持するというのは、血みどろの犠牲が積み重なっても戦争を続ける道である。

ロシア、プーチンがひどいのは当然ですが、ミャンマーの軍事政権もチベットウイグルを弾圧する中国政権もひどく、それらに対して軍事力で攻撃してそこだけつぶせるならそれも、政治的な選択の一つと思います。

しかし、私はそういう政治家の立場で、ロシアやミャンマーを攻撃する立場には立たない。なぜ為政者の立場で考えるのか。ロシアが悪いとしても、軍隊の一兵士として(国内の右派、民族主義者、ナショナリストなどと一緒に)ロシアにたいして武力で戦うことを選ぶのが当然、とはならないと思います。逃げる選択肢、軍事的闘いをやめるよう求める道があるべきです。

軍隊に入らない、武器を持たないという「戦い方」「抵抗の仕方」が想像できない人が、「ロシア・プーチンを止めるには武力しかない」と言います。昔からの同じ土俵にのったうえでのリアリズムの政治の発想です。それ以外の位相があるということが理解できない人が、軍事的対応にこだわるのです。すぐに「降伏したらレイプ、虐殺」を言うのは第二次大戦の日本などと同じく、一面的で、だから逃げることも、交渉の質も大事です。

尚、私は、戦争時に労働運動や女性の権利運動が進展した歴史を学んだので、国家総動員体制である戦時には、交渉して、戦争に協力する代わりに、組み合や女性運動団体が「権利」を一定獲得できることを知っています。部落解放運動もそうで、融和主義が出ました。

私は、戦争の総括から、そういう戦争に協力して権利を拡大することに反対する立場です。

そういう事も私のスタンスに反映しています。一番は、多くの戦争の体験、歴史、などを学び映画や小説、などからも学び、戦場というものの非人間性を見てきたからこそ、人が死ぬ重みを思うからこそ、「正義の戦争」でさえできるだけしないような志向になったのです。それが「マッチョへの抵抗感」であり、フェミ的感覚への親和性です。佐藤さんとは、そのあたりを共有していると感じています。

私の主流秩序論を知らない人にはわかりにくいと思いますが、ロシアと戦うというのは、世界的な暴力主義の主流秩序に対しては、そこと戦うのは、主流秩序への抵抗です。一方、ウクライナ国内における主流秩序は、ロシアと軍事的に戦う事であり、それに協力しない者は非国民的な扱いをされる。とするなら、ウクライナ国内において多様性を求めるならば、軍事的戦争に参加しないで逃げるのも大事な非暴力非協力的的抵抗路線としていくことでしょう。

この2つの主流秩序野観点を総合して考えなくてはならないと言っているのに、前者しか見ない人が、論点を単純に「ロシアが悪いというか、米ロシアの代理戦争とみるか」としているのです。ロシアが悪し、米ロの代理戦争の面もあるし、ナショナリストなどが戦争する中でそれに動員される面も見ないといけないのです。

 

以下、佐藤さんインタビュー記事

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「女らしさ」の利用、為政者が始めたら 戦火の前に気づくべきこと

朝日新聞 2022年8月15日 10時00分

ライフル銃の木造模型を手に軍事訓練をする女性ら=2022年1月、金成隆一撮影

 

 77年前まで続いた第2次世界大戦では、日本をはじめ多くの国が女性の戦闘参加を制限した。一方、ロシアの侵攻を受けるウクライナ軍に占める女性の割合は15%以上とされ、女性兵士に注目が集まる。日本でも女性自衛官は年々増加。この流れは、男女平等と歓迎していいのか。背景には何があるのか。戦争とジェンダーの関係を研究する一橋大学大学院の佐藤文香教授(50)にきいた。

 ――7月に著書「女性兵士という難問」(慶応義塾大学出版会)を出版されました。ロシア軍と戦うウクライナの女性兵士の姿をどう見ていますか。

 「他国による侵攻から国を守るために立ち上がる人々がおり、その中に女性も多く含まれるというのは、当然ありうることです。現在、ウクライナだけでなく世界中で女性兵士は増えています」

 「研究者としては、彼女たちの存在が戦争遂行にどういう効果をもっているのかに着目しています。ウクライナでは、ゼレンスキー大統領が18~60歳の男性を徴兵に備えて出国禁止とし、賛否両論が巻き起こりました。男性差別だという批判の声も少なからずありましたよね。一方で、命令されたわけではない女性たちが国に残り戦う姿をみせることは、国内と国外に対して、それぞれ大きな意味を持ったと思います」

 ――どういう意味でしょうか。

連載「ゆらぐ『平和』のかたち」一覧

戦争や軍隊をジェンダーの観点から長年研究してきた佐藤文香教授。軍隊で女性の姿が盛んに取り上げられるようになっても、単純に「ジェンダー平等」と捉えない方がいいと指摘します。

 「国内では、男性に対して、国を守るために戦うのは当たり前だ、というプレッシャーを与えたでしょう。戦争で女性はチアリーダーとして男性たちを戦場に『行きなさい』と鼓舞する役割を果たすのが常ですが、その変種ですね。国外に逃げようとする男性に対して、女性ですら国のために立ち上がっているのに、逃亡するなんてひきょうだと暗に責めたり、自責の念にからせたりする効果です」

 「一方、国外に対してはどうか。多くの国や人々は今回、ロシアに共感を寄せてはいません。それに輪をかけて、戦争に縁遠いと思われている女性たちが戦う姿をアピールすることで、ウクライナへの同情を国際的に喚起する役割を担っていると言えるのではないでしょうか」

 ――プロパガンダということでしょうか。

 「そういう側面もあるかもしれませんが、今回は政治家らによる意図に加えて、女性たちのボランタリーな参加がそのように機能したという印象を持ちます。自分の意思で兵士となり、その姿をSNSに投稿する女性たちが、世界にウクライナの窮状を知らせようとしていますよね。そうした行動がうまい形でイメージ操作のサイクルにのせられて、結果的に戦意高揚に利用されているのではないでしょうか」

戦意高揚に利用される女性の「意外性」

 ――なぜ、女性は戦意高揚に利用されやすいのでしょうか。

 「まずは意外性です。女性が男性と違って戦争や軍隊とかけ離れた存在と思われているからこそ、先ほど申し上げたような、男性へのチアリーダー的な効果と、侵略が不当なものであるというイメージをつくることができます」

 「もう一つ、戦時性暴力との関連があります。自国の女性の被害は、『許せない』と男性たちのあいだに復讐(ふくしゅう)心をつくりだします。歴史的にも、これが非常によく国威発揚に使われてきました」

 「ただし今回、ウクライナの女性副首相がNHKのインタビューで、ロシア兵による女性への性暴力はあると断言した上で、『センシティブな問題で被害者をこれ以上傷つけたくない』と内容をほとんど語らぬ姿をみました。これまでにないパターンだと思いました。戦時性暴力は、敵の残虐性を訴えることにも利用されてきた側面がありますが、今回は抑制がかかっています。これは、副首相が女性であったからかもしれない、と思います」

 ――戦争でジェンダーが利用されるのはなぜですか。

 「戦争を首尾よく遂行するには、戦う兵士として健康で体力のある男性が必要です。多くの男性に国外逃亡されたら戦争はできなくなるため、『男たるもの国のために生命をかけて戦うものだ』という観念をつくりあげていくことが不可欠です。もしウクライナで多くの男性が逃亡していたら、ここまで徹底抗戦はできていないはずです」

 「ただ、そうした観念を戦争になってから浸透させようとしても間に合わず、平時から国民に植え付ける必要があります。その際、女性との差異化が力をもちます。『男らしさ』とは『女らしくない』こと。例えば、普段の会話で『女々しい男だな』とか『女みたいに軟弱な男になるな』といった言葉にあらわれている価値観ですね。こうしたジェンダー観は、戦争を首尾よく遂行したい為政者にとって利用しやすいのです」

 ――日本でも、女性自衛官は増えています。その背景は。

 「日本は戦前、敗戦間際まで女性を戦闘に参加させることもなく、戦後に生まれた自衛隊にも参加する女性は多くありませんでした。女性自衛官は当初、看護職や会計などの事務職だけでしたが、職域開放を進めて、最近は戦闘職に広がり戦闘機にも乗れるようになりました。防衛省は、2030年度までに女性自衛官の割合を12%以上に引き上げることを目指しています」

 「背景にあるのは、少子高齢化による隊員不足です。人材を枯渇させないための策として、女性に目が向けられているんです。防衛省幹部の話では、隊員不足をおぎなうための『四人の活用』として、婦人(女性)、老人(高年齢層)、省人(業務省略化)、無人(AI、ロボット)がうたわれている。その中でも、女性の登用は、男女平等を推進する組織というイメージ向上の戦略も見込まれ、積極的に行われています」

戦闘参加を求める女性団体

 ――世界的なジェンダー平等の意識の広がりも関係しているのでしょうか。

 「そうですね。1979年に国連で女性差別撤廃条約が採択され、あらゆる分野で男女平等の実現が目指されることになりました。米国では1991年の湾岸戦争時、(米国最大の女性団体の)全米女性機構が、女性の戦闘参加を求めました。男性の徴兵制がある韓国では近年、『女性にも兵役を』という議論が活発化しています」

 「ただ、『ジェンダー平等』という表向きの理由の背後には、日本と同じように少子化が進み軍を維持するのが困難になっている、という事情を抱えた国が少なくないと思います」

 ――著書では、女性兵士の増加は「ジェンダー平等」というより、軍隊が意図的に女性を組み込む「ジェンダー統合」であり、単純に捉えるべきでないと指摘します。

 「私たちはつい軍隊にもいよいよ平等が押し寄せてきたと考えたくなりますが、背景に隠れている個別の事情を注視していないと、実態を見誤ります。自衛隊で女性隊員が増えてきたのも、深刻な人材不足を背景にしています。自衛官募集のポスターは過剰なぐらい女性を登場させてきましたが、そのことによって、自衛隊を平和で愛される組織だとアピールできた側面もあるでしょう」

 「また、男女平等の思想であるフェミニズムは、軍隊や戦争にも平等を訴えるべきだとの主張もありますが、フェミニズムはそれほど単純なものではないと考えています」

 ――どういうことでしょうか。

 「軍隊での平等を求めるフェミニズムが存在するのは確かですが、それを批判するフェミニズムもあり、相互に議論を積み重ねてきた歴史があります。例えば、女性兵士の増加にあわせて国が軍事費を増強し、代わりに社会福祉費が削減されるなら、それによって影響を受ける女性が出てくることになります。そうした広い視野でみたときに、はたして女性兵士の増加は、ジェンダー平等を進展させることになるでしょうか。女性兵士に注目が集まったこの機会に、日本でも丁寧に議論すべきだと思います」(聞き手・伊藤和行