- 知事の辞職がゴールではない
主流秩序論との絡みで子のはなしをしている。知事が悪いのは明白だが、それに一緒に加担した人物たちの責任こそ、ここで問いかけたいことである。多くの者は見て見ぬふりで、一部は積極的に知事と犯罪的行為を重ねた。知事が辞職すれば済む話ではない。知事をはじめとして4人組など加担者は、先ず県民局長Aさんとその遺族に真実を語り謝罪すべきである。メディアも、斉藤知事に縛って、「4人組」(牛タン俱楽部)→加担辯護士の犯罪行為追及の点で生ぬるすぎる。
斎藤知事は、神戸市出身だが維新系で、大阪府財政課長をしていたところ、維新と一部自民党の支援を受けて知事になった人物である。自民は分裂選挙となり、斎藤知事と対立している者も多い。斎藤知事の任期満了は25年7月末で、来夏には知事選があるので、百条委の設置に賛成した会派内には、別の知事候補の擁立に向けた水面下の動きもあり、政局の側面もあるが、事の本質は行政内部の不正を告発した、内部通報への弾圧があっていいのかという問題である。政局だとして冷笑していいていい問題ではない
したがって斎藤知事が辞職すればいいのではなく、副知事や人事部も含め、今回の不適切な内部通報つぶしに加担した者たちをあぶりだし処分することが必要なのである。斎藤知事の進退問題に焦点を絞るものは間違っている。
また告発した元局長Aさんは、7月19日の百条委員会で証人として出席する予定だったが、維新などの議員が、「この元局長のPCの情報を全部出せ」と言って、個人的な問題まであぶりだそうとして、当該男性は、それは関係ないからやめてほしいと述べていた[1]。そういう圧力の中、この元局長Aさんは、録音などの証拠を残して、7月7日に自殺した。「死をもって抗議」するという言葉を残していた。
知事側に立った議員が、個人的私的な「弱味」を使って脅したこと自体が問題で[2]、内部通報者への攻撃をおこなったのであるから、そこも責任を問われるべきである。
- 県の不適切対応の背景に県の藤原弁護士がいた
兵庫県がAさんに懲戒処分を出した際、調査に加わった藤原正広弁護士がAさんの告発内容を「居酒屋の噂話を信じて作成した文書」と断定し、公益通報者として保護する必要はないと県に伝えていたことがわかった[3]。藤原弁護士は、5月7日の処分発表の記者会見に「兵庫県特別弁護士」の肩書で同席していた。
Aさんの処分を決めた「決裁書・報告書」【5月2日】について、兵庫県明石市の辻本達也市議が県に公文書公開請求を行ったところ開示され、多くのことが明るみに出た。そのなかで、一連のおかしな動きにお墨付きを与えたのが県の藤原弁護であることが判明したのである。以下のような「弁護士の意見」があったので、県はAさんを公益通報者保護法上の保護対象として扱う必要がないと判断したのである。
「決裁書・報告書」では、告発を「誹謗中傷」と決めつけ、それに対して藤原弁護士は、「作成した文書を10人に配って、その中にマスコミ関係者がいたということは、報道してほしいという意図しか考えられない。マスコミは仕事柄知ってしまった以上書かざるを得ないから広がることを期待していたと評価されても仕方なく、流布したという認定は可能。 居酒屋などで聞いた単なる噂話を信じて作成した文書は、その内容が真実であると信じるにつき相当な理由にはならず、告発者の利益を守る対象ではない」と見解を示したとのことである。
つまり藤原弁護士が、Aさんの告発を公益通報とみなさなくてもよい、通報者の利益を守らなくてよいと決めつけたのである。当然、公益通報者保護法はメディアへの情報提供も公益通報とみなし、通報者の詮索や、通報者に不利益を与えることを禁じているが、当該弁護士は、その基本も知らないかのように、居酒屋で聞いた単なるうわさ話と決めつけて、違法な助言をしたのである。メディアに伝えたことが問題であるかのように述べているのも基礎知識の欠如と言うしかない。
集英社の記者がこの藤原弁護士を電話で取材したところ、自分が公益通報者保護法の保護対象ではないかという検討においてその旨の見解を示したことは認めたが、「内容については話せない」「県がどう受け止めたかはわからない」と肝心なところは逃げ続けた。
一方、県人事課担当者は、文書内の文言について公益通報者保護法を検討した末の藤原弁護士の判断だと認めている。「先生(藤原弁護士)からうかがったお話をまとめて記載している」とのべている。
斎藤知事も7月24日の会見で、(Aさんが4月4日に手続きを取った)公益通報の前に、内容が真実ではない、核心的なところに虚偽の内容が入っていたということで、懲戒処分の対象になるということで調査を進めた、当時の弁護士さんも、後から公益通報の手続きをとってもそれ以前に配布したことが保護される対象にはならないと発言をしたといって、藤原弁護士が一連の動きが適正であるとの根拠を与えたと認めた。
斉藤知事はその後も繰り返し、24年8月段階でも、告発文書を作成したAさんは公益通報の保護対象外だとの見解を改めて示した。定例記者会見で「(元局長は)事情聴取でうわさ話を集めて作成したと証言した。信じるに足りる理由があるとは判断できない」と述べた(この説明が嘘だらけ)。
つまり藤原弁護士が「真実であると信じるにつき相当な理由がない」と言ったので、県(知事勢力)は、専門家がそういうからいけると判断して、Aさん処分に突き進み、その後もその見解で居直り続けているのである。藤原弁護士は、知事側を擁護するスタンスで発言し、「告発された当事者」と一緒になって、「内部通報つぶし・Aさん処分」に加担したのである。
今回の公益通報握り潰し事件が、法律や制度に無知な斎藤知事個人の暴走ではなく、県が、弁護士という専門家も入れて、組織的に公益通報者保護法を意識して検討したうえでおこなったことだったというのは驚きである。政治権力という側面もあるが、利害がかかわっていったん認識が歪めば、正常な判断ができなくなるということの典型例のように見える。公益通報者保護法を意識したにもかかわらず、あとから検証されればあまりにお粗末な議論で、違法な調査、処分、公益通報つぶし、記者発表による名誉棄損などを行ったのである。藤原弁護士の責任が大きいことは言うまでもないが、集団的組織的に「先に結論ありき」の方にもっていた県の職員たちの愚かさが浮き彫りになっている。
なお、、斎藤知事にアドバイスをしている藤原弁護士は“中立の立場”ではなく、税金のキックバックで告発されている“信用保証協会の顧問弁護士”であるとわかった。つまり今回の不正疑惑の中で、訴えられている側の弁護士であった。ということは、”共犯者的立場“にある利害関係人であって、中立公平な辯護士ではない。そういう利害関係のある一人の弁護士だけに意見を聞いて、それで突き進んだこと自体がおかしい。他の中立的で、まともな意見を言う弁護士に聞くべきであった。藤原弁護士の責任が追及される必要がある。
- 法的にも、斉藤知事の言い分がおかしいことは明白
メディアがなかなか厳しく追求しないのでおかしいと私は思っていたが、百条委員会でようやく、知事の言い分がおかしいということが指摘された。
斎藤知事は、亡くなった元西播磨県民局長による内部告発を「うわさ話を集めたもの」「真実相当性(真実と信ずるに足りる相当の理由)がない」として公益通報には当たらないと主張した。
これに対して「真実相当性はある」「そもそも告発された当人が真実かどうか決めつけること自体がおかしい」などの異論が出ていたが、上智大の奥山俊宏教授と費者庁公益通報者保護制度検討会の委員である山口利昭弁護士からの意見をふまえて、決着がついた。[4]
それは、「告発に真実相当性があろうとなかろうと、関係ない」 ということである。「告発に真実相当性はない」と繰り返す斎藤知事に対して、山口弁護士は「真実相当性はある」と反論することも有効ではあるが、法律に照らすとそもそも「告発に真実相当性があろうとなかろうと、斎藤知事がしたことは違法だ」と指摘できるのである。
2006年の施行当初、公益通報者保護法は通報者をクビにするなどの「不利益取扱いの禁止」だけを決めた短い法律でしかなく、その適用条件として外部通報には「真実相当性」が求められていた。lしかし2022年の大幅な法律改正によって、同法は「不利益取扱い禁止」だけではなく、新たに「公益通報の保護する措置」についての事業者の義務も規定することになり、その内容として内閣府指針は 「やむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとる」とした。 つまり、余程のことがない限り「通報者探しは禁止」と決まったのである。そして、ポイントとなるのが「通報者探し禁止」となる通報の範囲で、。同指針はその範囲を「公益通報者保護法2条の公益通報」と定めた。
公益通報者保護法「2条」は、金もうけや私怨などの「不正の目的」ではない限り、広く公益通報に当たるとしていて、そこに「真実相当性」という条件はないのである。したがって「真実相当性がない通報」の場合まで含めて、広く禁止されたと理解しなくてはならない。
斎藤知事とつるんだ上記の藤原弁護士は弁護士としても間違っているのである。
[1] 維新の会は知事を担ぎだした会派で、百条委員会の設置に反対した。百条委員会の委員の一人である維新の議員から人事課調査にかかる資料はすべて開示されるべきだとの発言があった。それは、AさんのPCの中の私的利用部分もさらけ出してAさんの問題を追及するという意味だったので、Aさんはそれは内部告発とは無関係なので、そこはやめてほしいと訴えたのである。また維新の議員が「元局長をつるし上げてやる」 といった発言をしているという証言もある。
さらに7月8日午前、臨時で開催さらた百条委員会・理事会で、維新の県議が「告発文書には、斎藤知事の自宅や好き嫌いなどの記述がある。プライベートなことを取り上げているのだから、(元局長が)自らの調査結果はプライベートな問題だから公開しないでとは、あまりに都合のいい身勝手な論理ではないか」 「パソコンの所有者は兵庫県、データも兵庫県のものだ」、だから公開されて当然だと主張してAさんの要望を受け入れないよう訴えた。こうしてAさんを追い詰めたのである。維新の2人の県議が「すべて公開」の主張を変えなかったため採決となり、4対2で元局長の申し入れを受け入れることになったという。「斎藤兵庫県知事のパワハラ告発の元局長死亡 「つるし上げる」と維新議員から糾弾されていた」(AERA,2024年7/13)
[2] ここでは内容がわからないので「弱み」と書いたが、その内容は、個人的な不適切な使用というのではなく、他の人のことなどを考えて公表を止めようとしたのかもしれない。公用パソコンを私的に使ってはいけないのは一般論としては当然であるが、は県民局長という立場で部下も多数おり、様々な情報に触れ、対応する立場にあったので、外侮に出てはまずい情報があったのかもしれない。内部告発に関する情報提供者の割り出しや報復人事などを気にしたのかもしれない。データを出せという結論になることを悲観して自殺した可能性が高いのである。4人組や維新議員の責任は大きい。
[3] 「〈兵庫県知事側近の“牛タン倶楽部”は3人離脱〉自死した告発職員を「保護対象として扱う必要なし」「居酒屋などで聞いた噂話を信じて文書を作成」県の担当弁護士を直撃すると…」(集英社オンライン、24年8/2)記事より。
[4] 兵庫県庁の内部通報窓口で受け付けられた「内部公益通報」をきっかけとする調査については、県は、改正公益通報者保護法により体制整備を義務づけられている(11条2項)。体制整備の内容は内閣府告示である指針に示されており、それによれば、県は、「内部公益通報」の受付、それに関する調査、それに基づく是正のすべてについて「組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置」と「事案に関係する者を関与させない利益相反排除の措置」の双方を義務づけられている。こうした法的義務を果たすためには、何らかの第三者性ある調査に委ねざるを得ず、そうでなければ県の措置は公益通報者保護法の体制整備義務違反となりる。、「公益通報」に該当するとすれば、それを理由としたその人に対する不利益扱いは禁止される(同法5条)。告発文書送付を理由としたパソコン押収、圧迫的な事情聴取、県民局長解職、退職保留、懲戒処分はすべて、公益通報者保護法に違反する不利益扱いで、違法である。