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小金井・女子大生ストーカー刺傷事件で、被害者の冨田さんが怒りの手記


小金井・女子大生ストーカー刺傷事件で、被害者の冨田さんが怒りの手記を出した。警察は検証結果を出して一定謝罪したが、肝心の点で、未だに冨田さんから「殺されるかもしれない」という訴えがあったことを認めないなど、責任逃れをしている。
勇気をもって真実を告白できない「人間、警察官、警察組織」とは何なのか。


そのことも含めて、警察の検証結果、ストーカー法改正など再度全体像をまとめておきました。

 

◆2016年5月、小金井市で、元・地下アイドルで現在大学生(かつシンガーソングライター)の冨田真由さん(20歳)がファンの男・岩埼友宏容疑者(27)にライブ会場前で刃物で刺され、意識不明の重体になった(その後意識回復)。首や胸など全身20か所をめった刺しにされた。男は殺人未遂などの疑いで逮捕された(その後精神鑑定することとなった)。


岩埼容疑者からの冨田さんのSNSへの書き込みが始まったのは2014年の6月からだった。特に怖くなったのは2016年だった。ツイッターには男が被害者に腕時計をプレゼントした事が書かれていたが、被害者が腕時計を返却するとコメントは攻撃的になっていった。2016年1月18日に始まり、冨田さんが送信を受け付けない「ブロック」を設定する4月28日まで、多い時には1日に18回、101日間で計340件に上っており、執拗なストーカー状態になっていた。2016年2月のライブなどの際に「1月ごろ、帰り道で男に待ち伏せされ、電話番号を教えろと何十分間もしつこく付きまとわれた」などとファンに話していた。またライブのあとに冨田さんに岩崎容疑者がつきまとい、周りにいたファンが引き離したこともあった。

 

岩埼容疑者は、SNSなどに、「あなたに見下されたこと一生忘れないから」「君の人生、誰のもの?」「トミーさんは不誠実だねぇ」「『腕時計』を捨てたり、売ったりするくらいなら返して。それは僕の『心』だ」」「愛情なんていとも簡単に憎悪に変わっちゃうけれど、僕は普通にトミーさんのこと好きですよ」「まゆちゃ~ん!!!」「おはよー」「瞳を閉じればあなたが」「誰にでも優しいのは無責任」「お前それでも人間か」「早く『ゴミ』返してね」「差出人不明は失礼」「ほんと、嫌な女」「腕時計はハンマーでぶったたいて粉々にしてやります」「最高の嫌がらせありがとー」「もっと見下し馬鹿にしてみろよ冨田真由」「ふざけんな、マジで」「スゲー怒っている」、「一部しか返って来てないんで、全部返してください」「早く返せ」「返せ」「投げやりになって 何かをしでかしたいと思った どうせ、のたれ死ぬだけのくそったれの人生 結果なんてどうでも良くて ただ、逆恨みと顕示欲だけのどうしようもない情動」「死にたいんじゃなくて、殺されたい」「劇的を望む」、などの書き込みを繰り返していた。

 

男は自身のブログで「僕は殺したい」「犯罪します」「ツイッターをブロックされた あははははははははは・・」「あいつしねばいいのにな」「ムカついている」「君の努力を全部無駄にしてやる」などのほかに「死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ・・・」と何百回も「死ねよ」を記述する書き込みもしていた。

また事件当日には「ひとをなんらかの行動に駆り立てるのはたいていの場合、意欲などではなく、羞恥だ」「行ってきます!」と書き込んでもいた。最後の書き込みは駅で待ち伏せしていた時の「まだかなまだかな~」だった。

 

今回の事件に関して、被害者の女性や母親が何回も警察に相談していたし、書き込みは明らかに殺人の危険性があるものであった。被害に遭った富田さんは5月9日に警察署を訪れて、加害者の住所や名前、ツイッターへの執拗で危険な書き込み内容を印刷した紙を署の担当者に渡し、プレゼントを巡ってトラブルになっていること、岩埼容疑者から腕時計とわいせつな本を手渡されたこと、ことし1月ごろからたびたびライブ会場などに現れて電話番号を聞き出そうとしていたことなども相談し、「書き込みをやめさせてほしい」「友達にまで迷惑をかけているから、やめさせてほしい」と訴えていた。

しかし、警視庁は、ストーカー規制法ではSNSは対象外だとし、また「直ちに危害を加える内容はない」として、切迫性があると判断せず、当然使うようになっている「危険度を判定するためのチェックシート」を用いなかった。これ自体大問題で大きな判断ミスである。


さらなるミスとして、今回、ストーカー事案などに一元的に対応する同庁の「人身安全関連事案総合対策本部」の専門チームに武蔵野署は連絡をしなかった。連絡していれば、そこで事態の危険性や切迫性が評価されるはずだった。
そもそも今回の事案を「ストーカー相談」として受理せず、「一般相談」として扱うという判断ミスを犯していた。

さらに男性加害者(容疑者)の所在の確認をせず、接触しておらず、呼び出しも警告もしていなかった。私はこれが一番大事なのにいつもこの点が軽視されていると思っており、最大のミスだと思う。


事件直前にも武蔵野署は小金井署に「通報があったら対応してほしい」というのみだった。そのため小金井署は会場に警察官を配置していなかった。これは両方の警察署のミスといえる。

 

さらに、事件発生時に冨田さんから110番を受けた警視庁通信指令本部が、通報場所の位置情報を確認せず、武蔵野市にある冨田さんの自宅に警察官を向かわせていた。これは警察のミスであるが、ストーカー事案として警戒して、その日の活動がライブだと把握したことを書き込んでいなかったことの結果でもある。


 武蔵野署は、緊急時に迅速に対応するため5月20日、冨田さんの携帯電話番号を「110番緊急通報登録システム」に登録はしていた。しかし、110番を受けた時に、携帯電話の位置情報を手動で確認する作業を行わず、緊急通報登録システムの登録内容に基づき名前や武蔵野市にある自宅住所が表示されたため、自宅に警官を派遣してしまった。位置情報を手動で確認する作業をしなかったのは明らかなミスである。

 

岩埼容疑者は、実は約3年前、芸能活動をしている20代の別の女性のブログに、『殺す』などと嫌がらせの書き込みをしていたため、千代田区の万世橋署が岩埼容疑者に警告して辞めさせていた(電話で注意したが任意の呼び出しに応じなかった)が、同署は相談を登録するシステムに彼の名前を入力していなかった。また滋賀県内に住む別の女性が2015年12月、岩埼容疑者とのトラブルについて滋賀県警に相談していた件もあった。
つまりこの男については、千代田区での相談、冨田さんの母親の京都府警への相談と冨田さんの東京での相談、滋賀県での相談など、合計3件あったがどれでも名前を入れて記入しなかったため結合されなかった。警視庁では、こうした被害相談は部署間で情報共有するシステムに登録することになっているが、万世橋署の担当者は女性の名前や相談内容を登録したものの、岩埼容疑者の名前を登録することを失念していた。もし入力していれば、今回相談があったときに岩崎容疑者が前にも同様の行為をしていた危険人物とただちにわかって対応が変わったはずである。この点でも警察のミスがあったといえる。

 

「SNSは対象外だった」という警察の不作為の言い訳は、2014年の有識者検討会などでもはっきりとSNSも対象とすべきと指摘されており、都道府県の条例ではすでにSNSの嫌がらせも対象としていたり、現場ではSNSも含めて積極的に対応するのが当然の段階に至っているので、今回の警視庁の言いぶんには正当性も説得力もまったくない。
以上、何重ものミスが警察にあったことは明らかである。

 

今回、上記の諸ミスをせずにすぐにストーカー事案として登録し、情報を共有し、総合対策をとるべきだった。まず警察は加害者の所在を確認しすぐに接触し、注意・警告とともに、加害者相談(加害者プログラム、カウンセリング、治療)につなげて、その後も観察し続けるべきであった。また被害者周辺、ライブ会場周辺をパトロールして警戒・警備すべきであった。

拙著『デートDV・ストーカー対策のネクストステージ』で示したように、いくつかの事件ごとに対策は強化されてきたが、特に、長崎県西海市や東京・三鷹市のストーカー事件では、被害者や家族が警察に事前に相談したにもかかわらず、警察は、差し迫った危険性はないと判断し、十分な対応を取っていなかったことから、警察庁は、3年前(2013年)に対策を強化した。
具体的には、ストーカーの被害の相談を受けた場合は、警察署長だけでなく、ストーカー事件を担当する警察本部の専門部署にも報告するようにしたほか、ストーカーの危険度を客観的に判定するチェックシートを作成し、危険性を正確に見極めるようにするなど、相談を受けた時の対応や態勢を強化した。


また、被害者に危害が加えられる危険性や切迫性が極めて高い場合には、被害者を安全な場所に避難させたり身辺を警戒したりするほか、刑事事件として立件が難くても加害者に接触し指導や警告をするとした。
このほか、相談の内容を「相談情報ファイル」という警察のシステムに登録し、加害者がほかの都道府県でストーカーのトラブルを起こしていないか確認できるようにした。

だが今回はほとんどなにもなされず、何重ものミスをした。警察はまたまた同じ失敗を繰り返した。警視庁、警察の上層部は、この数年、より積極的な対応をするように号令をかけ続けているが、末端の現場、警官にはまだまだ低い意識の人物がいるということだ。

 

今回の事態を受け警視庁は2016年6月に、緊急通報登録システムに登録している電話番号から通報があった場合、自動的に位置情報が表示されるシステムを導入することとした。
またこの事件を受けて、ストーカー規制法が2016年秋に改正された。

なお2016年12月に冨田さんは手記を発表した(後掲)。そこでは、相談した際に、女性の警察官がほとんどメモを取らずに話を聞いていたこと、他の男性警察官が忙しいといって何度も部屋を出入りしていたことなどから真剣に危機感をもって話を聞いてくれなかったことへの批判が書かれてあった。彼女は「殺されるかもしれない」と資料も見せて恐怖を訴えたのに、対処してもらえず、病院で意識を回復したときに警察から聞かれた最初のことばが「本当に『殺されるかもしれない』といったのですか」だったたので腹が立ちまた悲しくなったという。なぜこうした失態になったのかの説明を求めているが、相談を聞いた警官はいまだに「殺されるかもしれない」とは聞いていないと否定している。冨田さんはそうした体質に怒っている。

 

警視庁は、この事件を検証して、2016年12月に対応に不備があったと認めた。冨田さんへの聞き取りや相談内容を精査した結果、事件前に相談を受けた段階で身の安全を早急に確保する必要があったと結論づけた。また冨田さんから110番通報された際、「受理担当者が携帯電話の位置情報の確認を失念した」などとミスがあったことも認めている。


そのうえでこの事件発生後の取り組みとして以下のことをまとめている。
1 事態対処チームへの情報の集約
一方的な好意の感情又は嫌悪の感情を含む相談(同一文言や同一内容の繰り返しがあるものを含む)は、事態対処チームに速報し、事態対処チームは危険性などの判断に関する指導・助言を行うこととした。


2 事案の危険性、切迫性の適格な判断と組織的対応の強化
関係者からの幅広い事情聴取、過去の警察での取り扱い状況、サイバー空間の状況などを把握して危険性などを見極め、早期の事件化、迅速な口頭警告、保護対策(定期的な聴取やパトロール、具体的な防犯指導)を行うこととした。即応システムには相談者の住居地以外でも、相手方と接触する可能性がある場所を登録することとした。


3 相談内容の確実な登録
同種の相談内容への活用のため受理時の内容、人定、経過などに加え、処理過程で判明した事項についても、相談システムに確実に登録することとした。


4 110番通報に対する迅速、適格な対応
登録された電話からの110番は、自動的に位置情報を画面表示するようシステムを改修した。


5 全職員に対する意識の徹底
迅速、適格な相談者などの安全確保については全職員に意識付けを行った。
以上

 

資料  冨田さんの手記
まずは、私が被害に遭ったときに、現場で犯人に立ち向かってくれた方、110番通報をして下さった方々に、この場を借りてお礼を申し上げます。
 今私が生きていられるのは、皆様のおかげです。本当にありがとうございました。
 また、被害に遭った後から、これまでの間、警視庁の犯罪被害者支援室の皆様には大変お世話になっていて支援室の皆様にはとても感謝しています。

 

 犯人からのSNSへの書き込みが始まったのは平成26年の6月からでした。
 特に不安や恐怖を大きく感じるようになったのは、ライブ終了後にストーカー行為をされたことや、生き死にに関する書き込みが1日に何件もくるようになったことがきっかけです。
 初めは、気にしないでいようと踏ん張っていましたが、どんどん不安や恐怖が積み重なり、その重さに限界を感じていました。そんな気持ちから家族や友人に相談しましたが、犯人が急に目の前に現れて殺されそうになったとしても、私も家族も周りの人も素人なので、自分のことや誰かを守る方法は何も知りません。


 そんな中でも希望を持っていたのが、警察に助けを求めることでした。家族や友人は、命より大切なものはないよと、身の危険を感じていることや助けてほしいということを警察に伝えた方が良いと背中を押してくれました。私も、この不安や恐怖を解消するための一番良い方法だと思いました。

 

 警察には、命の危険を感じていることがわかる資料をいくつも持っていきました。男女2人の生活安全課の方が対応をしてくれて、主に女性が話を聞いてくれました。平成26年の6月からSNSへの書き込みが始まったこと、生き死にに関する書き込みが頻繁にあること、友人のSNSにも迷惑な書き込みがされていること、ライブ終了後にストーカー行為をされ命の危険を感じていたことを、持っていった資料を見ながら、特に危険だと感じていたものに関してはひとつひとつ説明をし、「殺されるかもしれない」と不安や恐怖を訴えました。資料が多かったため、後でゆっくり読ませてもらうと女性の方に言われましたが、ストーカー行為をされたことに関しては、そのときの状況を何度も説明すると、頷きながら聞かれていたので、理解してくれたのだと思っていました。相談にいったときに伝え忘れたことはひとつもありません。

 

 警察からは、「使っているSNSから犯人のアカウントをブロックしてください」「何かあればこちらから連絡します」と言われました。その後相談から事件までの間に、担当者から3回ほど電話がかかってきましたが、私のことを聞かれたのはそのうちの1回だけでした。


 事件後、私が相談に行ったときのことについては、平成28年11月28日と12月2日の2回にわたって、警察から事情聴取を受けました。


 警察からの聴取の際、挨拶が終わった後の最初の言葉が「本当に殺されるかもしれないと言ったんですか」でした。その後も、私が「殺されるかもしれない」という言葉を言っていないのではないかと何度も聞かれました。


 でも、「殺されるかもしれない」という言葉を、私は絶対に伝えました。母も、警察に何度も訴えてくれました。これだけは間違いありません。この事実を警察が認めないことに、怒りを通り越して、悲しみを感じています。

 必死に訴えたことが全く伝わらなかった。感じるものに温度差があったとしても、警察に持っていった多くの資料があり、殺されるかもしれないと何度も伝えたにもかかわらず、危険性がないと判断されたのは今でも理解できません。


 今思うと、相談した際に、女性の警察官がほとんどメモを取らずに話を聞いていたことや、男性の警察官が「他の事件が忙しい」と言い何度も部屋を出入りしていたことから、私の相談を軽い気持ちで聞いていたのだと思います。
 私が言ったことをどのように受け取ったのか、相談した担当者に直接話を聞かせてほしいと何度もお願いしてきましたが、組織として対応していますと、一切取り合ってもらえませんでした。

 

 平成28年12月13日に、武蔵野署の署長からは形ばかりの謝罪がありましたが、「少しお元気になられたようですが」と傷付く言葉がかけられました。謝罪をしていただいたからといって傷だらけになった身体が元に戻る訳でもないし、時間を巻き戻せる訳でもありません。それでも、警察がどうして私の相談を真剣に受け止めてくれなかったのか、きちんと理由を説明してもらえるのなら、少しは救われるかもしれません。

 

 事件に遭った日から時間が止まってしまったかのように、前に進むことが怖くなってしまいました。支えや助けがあること、温かい言葉をかけてくれる人がいることで、きっと大丈夫だと思える勇気をもらい、なんとか毎日を過ごしています。
 この事件以降も、似たような事件が起こっているのをニュースでみかけますが、その度にとても苦しい気持ちになります。犯人の勝手な思い込みや都合、感情だけで、なくなっていい命はどこにもありません。

 

 本事案発生後の取り組みを拝見しましたが、警察がこの事件のことを本当に反省してくれていないと、また同じことが繰り返されるのではないかと心配です。
 この事件をきっかけに、同じ不安や恐怖を抱えて苦しんでいる人が、安心できるような社会に変わっていってくれたら嬉しいです。
 この文章で、少しでも私の気持ちが伝わりますように。
 平成28年12月16日 
       冨田真由

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2016年12月、ストーカー規制法改正

2016年12月、ストーカー規制法改正案が衆院本会議で全会一致で可決し、成立した。
 同法案は、2016年5月に東京・小金井市で起きた女子大生刺傷事件等、ストーカー行為による被害が引き続き深刻な社会問題となっていること、SNSなど、インターネット上の新たなコミュニケーションツールの広がりに伴い被害の態様が多様化していることから、規制対象を拡大し、被害者支援を一層強化するために次の内容の法改正を行うもの。

●規制対象行為の拡大
・拒まれたにもかかわらず、連続してSNSを用いたメッセージ送信等を行うこと、
・ブログ、SNS等の個人のページにコメント等を送ること、
等を追加。
●警告なしで禁止命令を可能とする。
●ストーカー行為等に係る情報提供の禁止。
●ストーカー行為等の相手方の職務関係者による配慮、民間施設での滞在支援などを規定。
●罰則の引き上げ――等。
 民進党などから、この改正案に対して、ストーカー行為等の被害者等の安全の確保を最優先に、組織的な対応を推進・強化するとともに、担当警察官による迅速、的確な対応が確保されるようにすること、非親告罪化に当たっては、本人の意思を十分に尊重すべき等、留意点が出された。


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