ある大学のジェンダー論のレポートをあつめた本、『主流秩序概念を知って見えてきたこと: 学生さんの本NO7』( Kindle版)
をアップしました。アマゾンで検索してもらえば見つかります。111円で読めます。みなさんが主流秩序と自分のかかわりを述べています。
他の学生さんのレポートも集まっているので、続いて紹介していく予定です。
紹介文
本書は、主流秩序・ジェンダー秩序に関する大学講義の学生レポートを紹介したシリーズの一冊である。主流秩序という概念に向き合って自分を語る。例えばある学生さんは、父が妻子を残して逃げるといった厳しい家庭環境で育ち、生き延びるために、空気を読んで主流秩序に適応する生き方を自覚的に行っている。借金のある状況だが、すべてをひた隠しにして社会的地位を落とさないように生きてきた。無理をして、見栄を張って、引け目を感じつつ、そういうことを人様に微塵も気付かせないようにと隠し続けてきたものだから、人の目が、社会的地位が、気になって気になって仕方ない。ディープなオタクだが、ださいオタクを嫌悪し、ツイッターにどす黒い気持ちを吐き出して何とかやっている。
また別の学生さんは語る。「男の価値は経験人数で決まる」という間違った価値観ゆえに、多くの女性と肉体関係を持った。それをまわりに吹聴し、周りは尊敬の眼差しで見てくれる。自分の愚かな自尊心は満たされる。セックスをすればするほど周りからの株があがる。価値を上げたいがためにまたセックスをする。・・・
色々な学生さんたちが主流秩序概念を踏まえて自分を語り、考えだす。その「とまどいと思考の始まりと喜び」の記録である。
はじめに
本書は、ある大学の2016年度ジェンダー論の学生提出レポートの一部である。当該学生の許可が出たものだけを載せている。
主流秩序概念と突き合わせて、様々な学生さんが自分の主流秩序へのとらわれを語っている。そんな風にへんな優越感を持って人を見下していたんだな、親に洗脳されていたんだな、コンプレックスをひっそりと抱えて苦しんできたんだな、などと分かる。
とくにまず、「●ケース4」のレポートを見てほしい。切実だ。面白い。この人が言うんだから、それもそうだなと思える。決して優等生的に「正解」を書くのではなく、唯一無二の誰にも言ってない、みえていない自分を語る。私はそこに希望を感じる。この人、いい人だなと思える。なんか信頼できる。それは考えているからだ。その先には何らかの変化があると思う。大切なものにたどり着く可能性があると思う。これだけの人だから。
また「●ケース2」の学生さんにも興味を持つ人も多いだろう。正直に、セックスしまくる自分の意識をみつめている。
学生さん達に触れていると、今の日本社会の空気を沁みつかせているといつも感じる。多くの若者が、様々な序列構造にとらわれ、格差、差別、いじめ、弱肉強食、「長いものに巻かれること」は仕方ないと思っている。そしてネットの中の感覚、ときには口ぶりを身につけている。
すぐに「ネットで批判してもいいかのように扱われているもの」に不信の目を持つ。そして外国の攻撃から身を守るには武装も必要という程度の意見が増えてきている。困ったものだが、大人たちがそうだから、主流秩序がそうだから、そうなるのも当たり前だ。
で、だからこそ、現状を自覚するための「メガネ」を提供した。学歴にとらわれ、人と比較して自己肯定感を低くしているよね。ダイエットや化粧・かわいくなることの追及は当然なの? 人権や自由や正義より安定重視で、あなたは本当にいいの?
そうした問いに出会った「とまどいと思考の始まりと喜び」の記録である。
目次
目次
- ケース1 人に嫉妬するし、人の価値観を学歴や金で見るようになっていたが、主流秩序を知って慰安婦問題、女性の社会進出、家制度、女性の学問などまで考えた。周りの目を気にしてホームレスの人にかかわるし、ガタロさんのようにはなれない。将来は国立大学、県庁に就職と言われてきた。大学受験に失敗して大泣き。授業を通して学歴よりも大切なものがあるかもと・・。... 3
- ケース2 早く成功しないといけないと焦っていた。でも非生産的なことの豊かさもあるなと思った。学校はひどかったが、パンクやロックを聞いて乗り切った。外見を整え、もててセックスをしまくって虚栄心を満たした。女性を傷つけた。「男の価値は経験人数で決まる」と思っていた。... 8
- ケース3 いまどきの学生はSNSによって主流秩序に囚われていく。面白いこととか幸せ情報をつぶやかないとだめ。SNSを見るのが怖くなる。就活で主流秩序に囚われていたが、面接の失敗から考え方を変えれた。... 13
- ケース4 父が妻子を残して逃げるといった厳しい家庭環境で育った。だから現実的に生き延びるために、空気を読んで主流秩序に適応する生き方になった。ディープなオタクだが、ださいオタクを嫌悪する。ツイッターにどす黒い気持ちを吐き出して何とかやっている。... 17
- ケース5 私は体制側に好意的なので、授業で主流秩序の話を聞くたびにイライラしていた。そうなったのは親を反面教師にしたことや特にしたいことがないから流されて安定志向で公務員を志望しているから。主流秩序に抵抗するほうがしんどそう。パワハラや体罰やしごきなども暴力という点でデートDVにつながっていると知った。... 21
- ケース6 最初にシングル単位と聞いた時にはなんて悲しく孤独な考えかと思った。恋人関係にも多少上下関係はあって当然と思うなどデートDVのことを知らずにしていた。親の期待通りお受験してきたが、小説家になりたいというと親に怒られた。私の家族が主流秩序の塊だと気づく。美の秩序にも皆がとらわれすぎ。... 25
- ケース7 「誰かよりマシだ」という感覚で生きている。活躍している人などを見て、何もしていない自分にコンプレックス。「私みたいな人」がみんなの前で目立つと笑われる、主流秩序の上位の人は何をしてもいいようにとられるが、私のような人は逆。クラブでは主流秩序の上位に行きたいと思ってテニス部に入ったが、やはり容姿にコンプレックス。美人といたら私は引き立て役。... 30
- ケース8 小学校の時の担任の先生が友達に「脚細いからモデルになれるよ」とほめたのを聞いて自分の体型に劣等感を持った。賢いと思われたい一心で塾に行って勝ち組を目指すようになった。顔がブスで根暗な人はいじめの対象とされたので、見た目秩序にもとらわれた。私は斜視があるのでキモいと言われた。それを補うために勉強を頑張った。トップを維持するのはつらかったが、ほんとうにやりたいこともわからず勉強を頑張った。大学では能力主義にとらわれた。しかし頑張ってもむくわれずやる気なくし、精神的にも病んでしまった。だがそこから主流秩序から離れる感覚も学んだ。振りかえれば私は承認欲求にとらわれていた。... 35
- ケース9 最初は勉強、途中から見た目やモテ能力秩序。彼女ができないことに疲れ、勉強で補う。親から、男の価値はどのくらい稼ぐかで決まると言われ続け、いい職場に就職出来て結婚して子供がいなければ幸せな人生はおくれないと思い込んでいる。モテたいこともあり、ファッションに興味があるがそれも人目を気にしている。... 41
- ケース10 クラブでいじられキャラ。苦しみながら主流秩序に合わせて上昇して脱出の路線。高校では勉強できることで優越感。大学ではそこも揺らぎ、人の評価を気にしていること自体を考える。... 44
- ケース11 今まで抱えていたモヤモヤの原因は、主流秩序だった。母親と塾の影響で学歴秩序に強くとらわれていた。間違った優越感を持っていた。進学校に入って名古屋大学以上に行かないという環境。そこからおかしいと考え始めた。なぜ勉強しないといけないのか、大学に行く意味は?と考え、答えがないまま勉強しなくなった。主流秩序にとらわれてきた中で今考えるのは・・・... 47
- ケース12 私の違和感の正体を明らかにするのがこのテキスト。悩める人々の希望や気持ちの持ちかたを楽にしてくれるものと思う。スポーツ活動でも進学でも、親の期待を裏切ってはならないと思って生きてきた。今就活においても同じ。でもそのように親の意向ばかりの人生を見直したいと思う... 51
- ケース13 中学までは勉強もスポーツもトップクラスで充実しているつもりだったが、高校で勉強圧力に苦しむ。学歴での優越感でごまかす。大学受験で失敗して、こんな大学に来てしまったと死にたいほど自己否定感。その自分の感覚が主流秩序とわかって今変化し始める。女の子は地元に戻って結婚というジェンダー秩序にも抵抗の意識が芽生える。... 56
- ケース14 引っ越しが多かったこともあり、スクールカーストの中で目立たないようにするのがいいと考えて生きてきた。中ぐらいでいいという生き方をしてきた。そのため大学では「ぼっち」寄りになり人目が気になった。この授業で主流秩序から離れる方向も考え、何をしたいのかという原点を思い出した。人を感動させる映像づくりをしていきたい。... 59