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2022年岡山・西田真愛(まお)さん虐待死事件

●2022年岡山・西田真愛(まお)さん虐待死事件 

 

拙著『DVと虐待』で検討した事例と重なる問題がまた起こったので、ここに整理しておく。

 

2021年9月、岡山市で、5歳だった女児・西田真愛(まお)さんを鍋の中に長時間立たせる虐待を繰り返すなどしたとして母親・西田彩容疑者(34)と内縁の夫・内装工の船橋誠二容疑者(38)が2022年2月に逮捕された。真愛さんは2021年9月、意識不明の状態で緊急搬送されて病院で脳死と判定され、2022年1月に低酸素脳症【のちに窒息の可能性も】で6歳で亡くなった。

女児の死亡を受けて岡山市は会見を開き、3年前から虐待を把握し、亡くなった真愛さんを一時保護したこともあった、面談などもしていたと説明し、対応の失敗を認めていない。ほかのきょうだい3人は事件後、こども総合相談所(児相)に保護されている。。

 

*最初の通報 2019年4月

両容疑者は2019年2月ごろ知り合い、内縁関係にあった。2019年4月、母親の交際相手から真愛さんへの暴力が疑われると外部から児童相談所に通報があった。市が調査したところ、真愛さんの額にあざを見つけたが、母親は「どこかにぶつけた」と説明し、内縁の男の存在も否定した。児相は、真愛ちゃんのけがを確認し、男の存在確認しないままであるが、通告内容などから母親が「第三者による暴行を止めていない」として、交際相手を隠していると判断。「第三者による子どもへの暴力を止められない軽度のネグレクト(育児放棄)」、虐待が行われていると判定した。「経度」としたことも根拠が不明である。しかも、この時は保護せず、見守り対象としただけであった。その後も内縁の男の存在を確認しようと努力することもなく時間が過ぎた。この後の面談で、真愛ちゃん自身は児相職員に「たたかれていません」と話したというが、本当のことを言えない子供の状態に危機意識を持てないのも問題であった。真実を聞きだす能力が欠如していた。

 

*一時保護に至る事件 2020年9月

次に2020年9月に、「入浴中に騒いだため、懲らしめるつもりだった」ということで、墓地で真愛さんが全裸・目隠しで立たされ、母親の交際相手から激しく叱られた。通行人が現場にいた両容疑者に「そんなことしたらいかん」と注意したところ、2人は真愛さんを連れて立ち去った。その虐待を見た人から通報があり、県警が駆け付け虐待と判断し、市こども総合相談所(児相)に通告、児相が真愛さんを翌日一時保護したが、わずか2週間で帰した。一時保護中の面談で、2人は「(真愛ちゃんが)入浴中に騒いだため、二度とさせないように怖がる墓地へそのまま車で連れ出した」「目隠しはより怖がらせるためだった」と説明。連れ出したのは通行人に見つかる約1時間前だと話した。船橋容疑者は過去にも墓地で2、3回叱ったと話した。2人が面談で「今後はしない」と反省の態度を示した、日常的な虐待も確認できなかったとして、児相は10月7日までの14日間で一時保護を解除した。男に対してその後加害者としての反省プログラムを受けさせることが全くされないままであった。この異常なレベルの重度虐待に対して2週間で解除というのはあまりに安易な対応であったといえる。加害者2人が「今後はしない」というのはあたりまえで、今後もしますというはずがない。

一時保護解除後、家庭訪問を数回したものの、主要な虐待加害者である男とは面談できないまま、時間だけが過ぎていった。危機意識が完全に欠如していた。絶対に会うべきであるし、指導すべきであるし、虐待再発がないか詳しく調べるべきであったのに、どれもが欠けていた。

 

*引越し

真愛ちゃんは4人きょうだいの末っ子で、2020年12月頃までは母親らと同市中区で暮らしていた。近所の女性(81)によると、きょうだいと鬼ごっこをするなど元気で、人懐っこい性格だったという。女性を「ばーちゃん」と呼び、お菓子をねだることもあった。

 

*死亡に至る連続虐待 2021年9月

2人は2021年9月の10日、11日、17日、21、23日などに計5回鍋の上に長時間立たせる虐待をおこなった。西田容疑者の自宅で、5歳だった娘の真愛さんの髪の毛を引っ張ったりしたうえで、いすの上に置いた鍋の中に明け方まで6時間近く立たせたほか、別の日には同じように立たせたうえで、上半身に霧吹きで水と見られる液体をかけて扇風機をあて続けたっり、顔を殴ったり、口に手指を突っ込んで下あごをつかんだりする暴行のほか虐待を繰り返したとして強要の疑いが持たれている。虐待の時間は、5日で計20時間以上に及んでいた。

船橋容疑者(38)は容疑を認めているが、母親・西田容疑者は「私がしたことではないので、共犯というのはおかしいと思います」などと容疑を否認している。

これらの虐待は船橋容疑者が主導し、西田容疑者は同じ部屋にいて止めなかった。船橋容疑者はこうした行為の前に、「やっと楽しいミッションがやってきた」「今日も楽しい時間が始まる」などと話していた。

死亡した女の子は病院に搬送される直前まで布団に巻かれた状態だったということが事件後分かった。2人は日常的に女の子を布団に巻いていたとみられ、警察は女の子が布団で窒息した可能性もあるとみて調べている。

西田容疑者の自宅のリビングと和室に設置されていた子どもを監視する複数台の小型カメラには「立たされて泣きじゃくる真愛ちゃんの様子」が記録されていたほか、「きょうも真愛を布団にくるくるしてるの?」などと船橋容疑者と話す西田容疑者の声が残っていた。カメラ映像はスマートフォンに送信可能で男が真愛さんの様子をスマホで監視していた。実際、男のスマホには真愛ちゃんが鍋の中で立ったまま泣く動画があり、カメラの映像が伝奏応されていた

母親の携帯電話から、交際相手の船橋容疑者にSNSで「そろそろ食事をさせないと(真愛ちゃんの)血色がやばい」とメッセージを送っていたことも事件後分かった。このように西田容疑者は船橋容疑者が不在の際、LINEなどで真愛ちゃんの様子を頻繁に伝えていた。

 

*児相・保育園の対応

2020年以降、このほかにも虐待の疑いがあるといった通報が2回寄せられ、児童相談所は警察と情報を共有するとともに、家庭訪問や面接を行って状況を確認してきたというが、事件を防げなかった。母親について「第三者による子どもへの暴力を止められない」と判定していたにもかかわらず、児相は一助保護解除後、男には話で話しただけで、虐待のリスクは高くないと判断していた。

交際相手の船橋容疑者についてはふだん別の場所に住んでいることもあり、1年は、、その存在を確認できず接触もできず、面談をしたのは最初の通報から1年半後(一助保護段階)で、直接話を聞くことができたのは合わせて3回だけだった。花足を聞いた時も「暴力は振るっていない」と男がいったというが、加害者が隠そうとするのは当然で、それをそのまま認めるのはあり得ない。

1年半も加害男性の存在をつかめないまま放置となったのは、児相が加害男性について調べようとしていなかったためである。「男が真愛ちゃんへ暴行しているのでは」との通告があった19年4月に児相が母親に聞き取りをしたとき、西田容疑者は「そういう人はいない」と主張した。男性の虐待という通告があったのだから詳しく調べるべきであったし、真実を隠している可能性が十分あり、母親と交際相手のことを聞きだしたり調べるべきであった。しかし、児相職員は重ねて問うことさえはしなかった。つまり何も深めず実態を把握しなかった。大問題である。子供にも近所にも聞けばよかったであろう。家の中も調べ、男の存在をつかむべきであった。子どもはすぐには本当のことを言わないから時間をかけて安心感を与えて聞き出していくべきであった。加害者がだれでどの程度の虐待があるのか調べないというのは、現状把握をしないという過失でしかない。児相が男について母親にそれ以上何も聞かなかったのは「今後の関係を考慮した」ためという。この言い分は、今までの失敗事例で繰り返されてきたものである。虐待に対してまずは発見し子供の安全をはかるべきであるのに、古い段階の意識レベルである「今後の関係・家族再生を考慮して敵対的関係にならないよう穏やかに接する」「拒絶されてもそれ以上なんとかしようとはしない。強い態度はとらない」ということで真実をつかまない姿勢であった。児相の意識の古いままの過失であり、結果から見ても責任は重い。

2021年9月に今回の死亡に至る大虐待があったが、2020年10月に一時保護解除で帰して以降、児相は船橋容疑者とは面談できず、21年1月に電話で話しただけだった。電話で、船橋容疑者は西田容疑者宅に変わらず通っているとし、真愛ちゃんへの暴力はしていないと説明したという。そういうのは当然で何の「虐待があるかどうかのチェック」にもなっていない。

電話で一度聞いただけで実態を何も調べないというのも、一時保護解除後にやるべきことをしていないというこれまでの失敗事例と重なる対応であった。虐待の傍観者的放置というレベルである。

2021年9月16日、真愛さんがその前後の日時に重大な虐待を受けている中、母の西田容疑者に連れられ、在籍する岡山市内の保育施設を2カ月ぶりに訪れたが、この際に園は虐待を見抜けず、事件後にも「少しやせて見えた」としたものの、重大な問題があるとまでは思わなかったと述べた。真愛さんは、21年4月は2日に1日ほどのペースで登園していたが、7月下旬には登園しなくなった。21年9月16日は事務手続きのために西田容疑者と2人で園に来て、他の園児らとは過ごさなかった。園は虐待を疑って調べるようなことは何もしなかった。保育園円と児相や市の虐待担当部署との連携もみあたらない。

真愛さんへの虐待をうかがわせる情報は、岡山市児童相談所に3年前から複数回寄せられていた。真愛ちゃんが西田容疑者らやきょうだいと暮らしていた家の近所の住民は、取材に「昼夜を問わず泣き叫ぶ声が聞こえた」と話した。何度も実態をつかむまで徹底的に調べるべきであったことは明らかだ。

岡山市こども総合相談所(児相)は事件が起きるまでの約2年半、両容疑者らと少なくとも23回接触していたと事件後に発表したが、それは外形的な形式で責任逃れを言っているだけで、真愛ちゃんの様子は21年4月以降、直接確認できていなかった。児相によると、西田容疑者とは児相などで12回、自宅訪問で9回、それぞれ面談した。

しかし、一助保護解除後においては、2021年8月までに母親と4回面談しただけで虐待を全く発見しないようなレベルであった。21年4月の児相での面談には真愛ちゃんが同席したが、6、8月の家庭訪問では、西田容疑者に「娘は親戚の所に行っていて不在」などと言われ、会えなかった。やりとりは玄関先だった母親に内縁男との面談も求めたが会えないままで、それを放置した。8月に「(船橋容疑者と)今度は会わせてほしい」と頼むと、西田容疑者は「分かりました」と答えたが、具体的な日程は決めないまま放置した。

こうした対応は、虐待への危機意識も、DVへの感性も欠如しているというべきである。意味のない面会を回数重ねたとと言い訳するところに、意識の低さが表れている。そのような不在(会えない)ということ自体が危険因子なので、その後再訪して調べればいいのだが、何もしなかった。

西田容疑者の自宅に複数台設置されていた子どもを監視するカメラには、鍋に立たせたり、真愛ちゃんに十分な食事を与えていないことなどがわかる虐待映像が記録されていたが、死亡まで、児相はその存在をつかんでいないままだった。船橋容疑者は10キロほど離れた場所に住んでいて、警察はカメラを通じて真愛さんの様子を監視していたとみている。母親のスマートフォンには男に真愛ちゃんの様子を報告するメッセージが残されており、母親が男の言いなりであった可能性がある。

 

*問題ポイント

児相は、うそを言う母親から真実を聞き出すなどできないまま。一番の加害者である男性の存在さえつかめないまま1年半放置していた。

虐待があり母親はそれを止められないネグレクトとしながら、積極的介入をしないで放置。

2020年9月の一助保護を、安全確保の態勢を作らず、2週間で中止した問題。「夜に子供を裸で目隠しして墓場に立たせる」など異常なレベルの重大虐待を軽視する、人権意識・感性の低さ。

虐待の主導者である船橋容疑者に直接会って調べること・再発チェックが一時保護解除後まったくできていない。加害者男に対してその後加害者としての反省プログラム的な指導を受けさせることが全くなされていない。

保育園に来なくなるという危険因子に対応していない。

保育園や近所の人から情報収集するなど、虐待継続実態をつかもうとしていない。

子ども自身に会い、詳しく調べて虐待状況を聞き出すことができていない。

内縁関係の二人の関係に支配=DV的関係があるかないかを調べていない。

女性・母親から虐待など本当のことを聞き出すことができていない。携帯なども調べられていない。

男が監視するため(虐待加担を母親にさせるため)につけさせたカメラについて把握できていない。その危険性の非常に高い物証を家の中に入って見つけていない。カメラには虐待が記録されていた。男が家の外にいても家庭内の状況を監視できるということの加害悪質性の判断が必要であった。

以上

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